私は買ってしまいました。昔だったら買わずに

同時に10冊も読んでられるか! - 一本足の蛸
で、二、三ページ読んで「この本はもういいや」と思い、棚に戻した。

としたかも。

それでも著者が社長をしていた会社の往事の製品よりは、「顧客満足度」はよほど高かった。

本書「本は10冊同時に読め!」は、マイクロソフト株式会社(MSKK)元社長の著者による読書術。

目次 - (手入力)
はじめに
第1章 仕事も生活も劇的に変わる!
「速読」かつ「多読」の読書術
第2章 一生を楽しみつくす読書術
人生は、読書でもっともっと面白くなる!
第3章 「人生を楽しむ力」と「読書量」
忙しい人ほど本を読んでいる!
第4章 まずは「同時に3冊」から!
実践!「超並列」読書術
第5章 「理屈抜きで楽しめる」読書案内
私はこんな本を読んできた!

本書は、こんな出だしからはじまる。

P., 4
この本で紹介するのは、「庶民」から脱するための読書術である。

そして、こう断言する。

高所得階級の人間になるか、低所得階級の人間になるか--その境目となるのは本を読んでいるか、読んでいないかの違いである。そもそも二極化の話も、本を読んでいない人にとっては「はあ?何のこと?」という話だろう。そういう人から「庶民」以下の暮らしへと転落していくのだ。

これを見て本書を棚に戻す人は、著者にいわせれば「庶民」ということになる。私が勝手に補完すると、「庶民であることに誇りを持つ人」だろうか。そして本書を買って読む「庶民」のほとんどは、「ドラゴン桜」を読むのと似たような気持ちで読むのではないか。

しかし、著者は元庶民であり、そのことを隠そうともしない。

P. 66
私は大学卒業後、自動車部品の販売会社に入社した。入社して3年間はほとんど服を買ってないし、娯楽にも費やしていない。もともと少ない給料の大半を、本に費やしてきたからだ。
P. 66
結婚して最初の年に、大晦日の日に2人で近くの寿司屋に食べに行ったのが結婚後はじめての外食というぐらいである。

しかし、実はこここそが一番重要なのだが、著者は庶民から脱出するために本を読んでいたのではない。

P. 71

読書に目的を持つな

「目的意識を持って本を読め」というセリフをよく聞くが、いったいどんな目的を持つのだろうかと不思議になる。

庶民から脱出するために本を読んでいたのではなく、本を読んでいたら庶民でなくなっていた、というのが真相なのだ。

振り返ると、私もそうだった。一円でも多く稼ぐことより、一冊でも多く本を読みたかった。それを続けていたら、金は後からついてきた。

そんな著者の読み方は、驚くほど私のそれと似ていた。要点を3つにまとめると、以下のとおりとなる。

  1. バラバラの分野の本を
  2. 同時に
  3. 読み飛ばす

もちろん委細に違いはある。著者は10冊同時に読むが、私は3冊程度。読む速度が速いので、切り替えが生じにくいのだ。それでも漫画なら10タイトル同時読みが出来るしそうしている。「10冊同時読み」で驚いている人は、現在進行中の連載マンガをどう読んでいるだろうか?結果的に同時読みになってはいないか?

そういうことを考えながら読むのは、さすがに目次読みでは不可能だし、よい本は目次で主旨を書き尽くしつつも、「目次を裏切る」本文をちゃっかり書くのを忘れない。その意味で本書は「充分よい」本であった。

どうせ棚に戻すのであれば、そこまで読んでからでもいいのではないか。実際私は貧乏時代はそうしていた。だからわかるのだが、それだけ速く読めてもなお、本は買った方が安い。勝手な場所で読めるからだ。ジュンク堂なら立ち読みどころか座り読みさえ可能だが、さすがにトイレ読みは出来ない。「本屋読み」や「図書館読み」では、「すきま読み」が出来ないのだ。食後に爪楊枝を使うがごとく本を読む。爪楊枝のようにカジュアルに読むには、文字通り手に入れておくのが一番よい。

しかし、ここまで似ていると、うなずきを通り越して自己嫌悪すら禁じ得ない。しかし好む好まざるとに関わらず、著者や私の読み方が結果論的に「脱庶民的」であるのは確かなようだ。

庶民であることに飽きたあなた、本はいかがですか?

Dan the Bookworm