これ、定性的には事実なのかも知れないけど、定量的に事実かというと、給与を出す立場だった私からみてもYesとは言いがたい。

就職氷河期と資本主義 - FIFTH EDITION
なんでかって話になるんだけど、まず、マクロな話になるんで、退屈な話かもしれないけど、日本って、正社員を簡単に解雇できないのよ。労働法の関係上、簡単に首切れない。

労働法上はどうなのよ、というのは、「労働法のキモが2時間でわかる本」の第11章を読んでもらうことにして、また実のところそれがどう活用されるのかというのは「カバチタレ!」の第一話を見てもらうことにして(どちらも広島に縁があるってのは偶然?)、ここでは実際に私がクビにした時の実例をお話することにします。

このケースでは厳密には解雇したのではなく、本人が退職を選んだという形になっており、これらのアクションはあくまで会社という法人が従業員に対してとったものなので主語が「私」というのもおかしいのですが、経営側の人間である私が率先して行動し、その結果彼が会社を去った以上は、「私がクビにした」という言い方は厳密でなくても正しいと考えるのであえてそのように書いています。

彼は私より年長で、しかも創業メンバーの一人。率直に言って最もクビにはしづらい従業員でした。その彼のクビを切ると決めたのは、それが会社にとってもベターだっただけではなく、彼にとってもベターと判断した上のことでした。

彼は決して悪人ではありませんでした。むしろ私も含めて「猛獣」だらけだった社内では、癒し系ですらありました。彼は私が入社する前に降格人事を受けていたのですが、それを恨むわけでもなく、きちんと出社して仕事をやっていました。

いや、出社しすぎていて、にも関わらず仕事が完了しなかったのです。

そのおかげで、彼は残業代のチャンピオンでした。基本給与は最低レベルなのに、残業代を加えると給与全体ではトップクラス。にも関わらず結局仕事がきちんと上がらなかったので、エース級の人材が彼の尻拭いをする羽目になっていて、これでは出来る社員が二重に腐ってしまいます。

善人で仕事ができない先輩。正直引導を渡すのが最も鬱になる相手です。だからこそ、今まで辞めずにクビにならずに残っていた。だからこそけじめをつけなければならない。

まず私は、彼の業務の履歴を可能な限り集めました。彼が書いたコードもすみからすみまで読みました。その過程で全部書き直したというのは余談ですが。その上で彼を解雇した場合、彼が退職を選んだ場合、そして彼が残留を望んだ場合を想定し、それぞれにリアクションを決め、他の役員にそれを提示して了承をとり、下準備を済ませてから彼を会議室に呼びました。

弾:
あなたはこのプロジェクトとこのプロジェクトで納期を破っている。なぜですか。
彼:
がんばったのですが....
弾:
あのプロジェクトは、結局A君に片付けてもらった。このプロジェクトは、私がやった。A君やわたしはがんばっていないのだろうか?
彼:
....
弾:
あなたはまた、我が社が導入したコーディング・スタンダードを守っていない。「use strict;で動かないプログラムは今後納品しない」と私も厳命したはずですが、なぜですか?
彼:
それだと仕事が間に合わないと思って....
弾:
それでは、あなたは顧客の立場で、どちらのプログラムが納品されることを望みますか?
彼:
コーディング・スタンダードを守った方です。

こういう会話を、まずは30分ほどかけてしました。その当時の会社の要求レベルを、彼が満たしていないことを彼自身に納得してもらうためにそれが必要だったのです。

弾:
それでは問います。あなたの同僚の立場だとして、あなたはあなた自身と仕事をしたいと思いますか?
彼:
思いません。
弾:
あなたが経営の立場、そう、今の私の立場にいたとしたら、あなたはあなたをどう処遇しますか?
彼:
クビにすることを考えます。

ここまで話してから、やっと私は彼に対する処遇案を披露しました。

弾:
あなたは解雇を選ぶことも出来ます。その場合当然法にのっとり、あなたは解雇予告手当を支給された上、すぐに失業手当の給付を受けることが出来る。自ら辞めることも出来ます。この場合、我が社にはあなたが解雇された場合に受け取るより多い額の手当を支払う用意があります。どうしますか?
彼:
辞めます。

正直疲れました。一人辞めていただくには、五人採用するぐらいには疲れるものだと事後にためいきをついたものです。しかし、誠意を持って礼を尽くせば、労使双方納得いく形で辞めてもらうというのも可能だということも示すことが出来たと感じます。

確かに経営の気持ちだけなら、「カバチタレ!」の主人公をクビにした社長よろしく、出来なかった分の給料返してくれよというのもわかります。解雇にまつわる手当を支払うときには、盗人に追い銭という気分にすらなるでしょう。

しかし、彼ないし彼女を雇ったのは、そもそも経営の責任です。上のケースでは彼を雇い入れたのは私ではありませんが、経営陣に入った以上はそれも私の責任の一部です。他人ごととして考えれば「盗人に追い銭」なのかも知れませんが、自分ごととして考えれば、雇い入れた方が悪いのです。

そう考えれば、現在の労働各法が雇用者に対して要求している解雇基準というのは、高すぎるとは思えないのです。もちろん労働各法が要求している水準というのは最低ラインであり、就業規則まで視野に入れれば「クビにしたくてもできない」というのはありえますが、むしろ「クビに出来ない」というのは経営者の気分の問題の方が大きいのではないでしょうか。

実際さまざまな人から話を聞いても、こういう場合きちんと辞めていただくより、ねちねちといじめて辞めるようにしむけたり、逆に開き直られて居座られたりという話が多いのです。本当に会社が左前で、本当に従業員が路頭に迷ったら一家離散という話は以外なほど少ない(ゼロではありません)。そういう場合でも、むしろ経営者が自殺して保険金で清算なんて凄惨な話の方をむしろよく耳にしたりします。

それであれば、懐も心が一時的に痛んでも、きっちり辞めてもらった方がお互いの立ち直りは早いのではないでしょうか。全てのケースがそうだというつもりはありませんが、それが出来ている会社ほど経営者も従業員も、そしてOB/OGもいい顔をしているというのが私の手応えです。

Dan the Newtron Bomber

それだと不当解雇じゃね? | hachimitu blog
僕も今の時代にあってないと思うけど、そうはいっても法律は守りましょうね。

コメント欄に記入しても反映されないようなのでTBにて。

法務にはきちんと相談した上での判断とだけ申し上げておきます。