日経BPより献本御礼。添え状を掃除の時になくしてしまったようだ。書評が遅くなったこととともにお詫びを。
中国人の、中国人による、中国人のためのECサイトは世界を制することができるか?
本書「馬雲のアリババと中国の知恵」は、浙江省の一英語講師が、いかにして世界有数のB2Bサイト「アリババ」を築き、C2Cサイト「淘宝網(タオバオ)」で中国においてebayと互角以上の戦いを繰り広げ、「第三者決済」という仕組みに不案内な中国で「支付宝(アリペイ)」という決済システムを作るに至ったかを綿密な取材を元に一冊にまとめあげたもの。
目次 - 日経BP書店|商品詳細 - 馬雲のアリババと中国の知恵より- 日本語版への序文
- 阿里巴巴(アリババ) 夢を抱いて道半ば
- はじめに インターネット世界における中国の知恵 呉暁波
- まえがき 阿里巴巴(アリババ) 見えた未来と見えない未来
- 第一章 大事件
- 現場
- 経緯
- 孫正義の戦略
- 第二章 そのとき、アリババは
- 健全企業
- 業界の権威
- 関連データ
- 第三章 創業
- 馬雲、インターネットに触れる
- 中国イエローページ社
- 北京の日々
- 湖畔での事業
- 第四章 孫正義が来た!
- カネだ!カネだ!
- なぜアリババは自信満々なのか?
- 孫正義が来た!
- 八二〇〇万米ドル
- 第五章 勢いに乗る時代
- 注目を集めたい
- 門を閉じたアリババvsメディアの好奇心
- フォーブス誌
- 西湖論剣
- 中国回帰
- 第六章 中国サプライヤー
- 中国の供給事情
- 掲載順位
- 「中国サプライヤー」成長の三段階
- 第七章 「信用通」の世界
- 会員一〇〇万社
- 信用通 ネットらしいサービス
- 信用通の世界
- 第八章 偉大な企業を目指して
- 最大の資産
- 三蔵法師の経典を求める旅
- GE出身幹部が夢にまで見た場面
- 偉大な企業への一歩
- 第九章 西湖論剣
- 第二回―巨頭たちの恩讐
- 第三回―新世代
- 第四回―未来の息吹
- 第一〇章 淘宝網(タオバオ)
- 秘密兵器「淘宝網(タオバオ)」
- 逆立ちすると何が見えるのか?
- スコア一対〇
- 易趣網よりもeBay的
- 第一一章 支付宝(アリペイ)
- 経済フォーラムの影響
- お支払いは?
- 第三者としての支付宝
- 収益源は?
- 第一二章 ネットビジネス商の時代
- 背景
- 同じテンポ、異なるテンポ
- ケーススタディ
- アリババが育てた企業
- OEM生産から自社ブランド生産への着実な歩み
- 生姜の売上高毎月数百元、ネットで成功した二七歳の青年実業家
- 年間輸出高一・一億米ドル、キックボードが企業を救う
- 小型ショッピングバッグをフランスに一〇〇〇万点輸出する
- ネットビジネス商 アリババの未来に至る道
- 付録 馬雲は語る
- あとがき
- 訳者あとがき
日本では「メタミドホスも売ってます」というぐらいにしか知られていないアリババであるが、上のアリババのページを見てもわかるとおり、その中身は世界を代表するWebサイトに相応しい、現代的で洗練されたものだ。同じB2Bがコアビジネスの楽天と比較すると、彼我の差に有機リン系の毒でももられたかのようなめまいすら感じる。楽天のビジネスがB2B2Cであることを差っ引いても、どちらが世界で通用し、どちらが日本でしか通用しないかがページから伝わって来てしまう。
しかし、ここまでの道のりは、平坦どころではなかった。というより、そもそも道がないところに道をつくったところにアリババの凄さがある。なぜアリババにそれが出来たのか?その秘密が創設者の馬雲にあるのだが、それは本書を読んでのお楽しみに。
それにしても改めて感心し呆れるのが、孫正義。目次にもある通り、アリババには彼も一枚噛んでいる。日本ではYahooオークションでebayを撃退し、そして中国ではアリババに淘宝網(タオバオ)でebayと戦わせて勝利を治めつつある。他のプレイヤーのスケールもステージも一段上だ。本書はそんなわけで孫正義を知りたい人にも必読の一冊となっている。
それにしても、中国人は、「パラダイス鎖国」の正反対にいる。国としては「パラダイス」ではないが実は「やんわり鎖国」している中国だが、人々の性向はその反対である。百度(baidu)にしてもそうだが、彼らは決して中国が「やんわり鎖国」していたから成功したわけではない。
現代日本人は、中国人を文字通り「見下す」傾向があることは否めない。ネットの世界ではさらにそうだ。しかし私には、それが母屋を乗っ取られつつあることにも気づかない、最上階に住む大家のような態度に思えてならない。
今まで中国人たちは、同じ中国人との間でさえ「手を携える」ことが下手だった。「中国人」は強くても、「中国人たち」になったとたんに弱くなるというのが彼らの特徴だったが、しかしそれは急速に変わりつつあり、ネットがそれを加速している。
中華五千年の歴史には学んでも現代中国に学ぶべきはあまりないと思っている方は、ぜひ本書を読んでそれを改めていただきたい。日本では中国のやらずぼったくりぶりばかりがニュースになるが、それは中国という大氷河の上に出来た湖に浮いた氷の固まりのそのまた一角にすぎないのだ。
Dan the "Sinophrenia"
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