だいぶ前に買ったのだけど、書評は入会してから、あるいは入会を断られてからと決めていたので。

というわけで、昨日入会手続きが完了したので書評+サイト評。

本書「富裕層はなぜYUCASEE(ゆかし)に入るのか」は、富裕層向けSNS「ゆかし」を創った著者が、富裕層とは何であるかを解説すると同時に、富裕層たちの気持ちを代弁した本でもある。

目次 - Amazonより
【序章】すべてはインターネット上のプライベートクラブから始まった
【第1章】新世代富裕層「インテリッチ」の誕生
【第2章】インテリッチはどうやって富裕層になったのか?
【第3章】インテリッチが社会を変える
【第4章】新世代富裕層の日常としての(ゆかし)
【第5章】世界が富裕層を奪い合う
【終章】個人が主役になる社会へ

といっても、本書では富裕層を二種類に分けた上で、その片方のみに焦点を当てている。

一つは「相続リッチ」。ステレオタイプな金持ちとして、小説や漫画やTVといったフィクションに登場するの「お嬢様」「おぼっちゃま」がこれに相当するだろう。しかし、こちらは本書の主人公ではない。

本書の主人公は、目次にも登場する「インテリッチ」。古風な言い方をすれば「成金」ということになるが(私はこちらの方が好きだ)、運と実力で若くして金持ちになった人々のことである。しかし、著者がわざわざ「インテリッチ」と名付けた理由もわかる。なぜなら、かつての成金と今の「インテリッチ」は、これまたステレオタイプとは異なるからである。

P. 28
  • 第1に、90年代後半以降の「知識社会」という時代背景の中を、現役で生きていること
  • 第2に、富を形成するための職業が、新しい知識や、他者との差別化といったオリジナリティ、知恵が重視される業種であること
  • 第3に、彼らにとっては、一番大切なのはお金そのものではないこと。それよりも、富を生み出す源泉である、「自分の知恵や知識が本当の財産である」と認識しているということ。

この「インテリッチ」たちは、今までの金持ちとは別種の存在であり、にも関わらず「富裕層向け」商品の多くは、今までの金持ちのイメージにあわせて設計されていて、そこにミスマッチがある。

P. 97
■東京都在住・40代・経営者
「富裕層でない人が、本当の富裕層でない人向けに作っている気がする。雑誌が家に送られてくるのですが、いつも開封していません」

そこに商機があるのではないかというのが著者の主張であり、また著者が「ゆかし」を立ち上げた理由である。日本には「インテリッチ」が数多くいるのに、彼らは横のつながりが薄く、つながりを求めて声を上げようものなら嫉妬で村八分にされかねない。そんな彼らの居場所を用意しようという著者は慧眼である。というより著者自身が「インテリッチ」であるがゆえに、その発想に至ったのだろう。

高岡壮一郎 社長日記(「知恵の総合商社」←旧:商社マン日記):富裕層はなぜYUCASEE(ゆかし)に入るのか?(高岡壮一郎 著/幻冬舎)  - livedoor Blog(ブログ)
原稿を入稿して一息ついた1月に新聞を見ていると、今、20代・30代の若者が『日本を良くするために政府に望むこと』はなんと、「大企業と富裕層に増税をすること」だそうです(NPO法人政策過程研究機構、約1000名へのアンケート)
若者がそんなことを願う世の中なんて、どこか閉塞感があるのではないでしょうか。

私は著者の意見に100%賛同するものではない。が、日本に成り上がり者たちがくつろげる場所が実に少ないことは肌で知っている。本blogのentriesとそれらへの反応がそれを裏打ちしている。

しかし、本書の装丁を見て、「著者は本当にそれがわかっているのだろうか」という疑念もまた湧いた。金文字のカヴァー、章ごとの写真....これらはどちらかというと「ふつうの人が抱く金持ちのアイコン」であり、本書が一般書であることを考慮に入れてもちょっと「ベタ」なのだ。

それを知りたくて、「ゆかし」に申し込んでみた。

少なくとも、本書に書いてあることが嘘ではないことはわかった。加入申請はたしかにきちんとしている。私は3月4日に申し込んで、加入手続きが完了したのは昨日。二週間以上かかっている。その間に事務局からは電話が二度来た。質問も具体的で的確だった。ダイナーズやアメックスといった高級クレディットカードの審査よりはよほどていねいで厳しい審査である。

そしてサイトにログインしてみる。全セッションがhttpsであることを除けば、今のところは普通のSNSではある。実名を公開している会員もまだまだ少なく、会員たちの多くがまだ「おそるおそる」使っていることが伺われる。また、そこにあるコミュニティなどのコンテンツも、まだまだ「いかにも金持ち向け」というものが少なくない。正直、私も含め会員達は「自分達しか入れない場所にいるのだ」ということ自体に慣れていないのだろう。

その意味で、「ゆかし」というのはまだはじまったばかり。本当に「ゆかせる」ようになるのはこれからだろう。コミュニティもいかに入会審査が厳しいとはいえ、小さ過ぎのものが多く、SNSとしてのクリティカルマスに達するにはもう少し会員が欲しいところだろう。

それでも、こういう会員を厳選したSNSというのは、むしろSNSの原点ではないかという思いも新たにした。別に金持ち向けでなくても、「わかる人だけ集う場」というのを人は欲するものである。GREEはかつてそれに近い場であったそうだが、今その面影はない。

とはいえ、私は「ゆかし」がゲーテッド・コミュニティになることも望まない。私が日本が好きな理由の一つは、ゲーテッド・コミュニティにまだなっていないこと。確かに私は超高層マンションのペントハウスに棲んではいるが、玄関を出ればそこには下町の光景が広がっている。田園調布にすら今のところゲートはない。別に別世界の住民になりたいわけではないのだ。

それでも、たまには「下界」から離れて「集ってくつろげる」場所はあってもいい。「ゆかし」はそういう場所になれるだろうか。今から楽しみである。

Dan the Newbie Thereof