英治出版の松本および竹井両氏より、「未来をつくる資本主義」とともに献本頂いたもの。

初出2008.04.03;販売開始まで更新

一言で言うと、本書は「未来をつくる資本主義」が提示した課題の、多国籍企業による回答、ということになる。

本書、「ワールドインク」は、21世紀に求められる新しい資本主義である

英治出版 | 書籍一覧 | 未来をつくる資本主義
21世紀に求められるのは、多くの犠牲を払い少数に富をもたらした産業革命の資本主義ではなく、経済ピラミッドの底辺(BOP)に創造[ママ]を絶するほど莫大なビジネスチャンスをつくり、既存企業の地位をも奪う、新しいダイナミックなグローバル資本主義である。

「新しいダイナミックなグローバル資本主義」を、「古くてスタティック」なグローバル資本主義の権化と見なされることが多かった多国籍企業がどう実践しているのか、そしてどう実践しようかをレポートした一冊。

目次 - 英治出版 | 書籍一覧 | ワールドインクにないのでAmazonのそれを援用
目次
まえがき パトリシア・アバディーン
第1部 静かなる革命
1 ワールドインクの時代 企業の役割が変化する
2 Sフロンティアをめざせ 「社会対応」とは何か
3 社会対応型資本主義 経済は根本から進化する
第2部 変革の視点
4 トヨタに学ぶ 「持続可能な成長」への戦略
5 隠れた企業価値を探せ 屋敷の構造を解き明かす
6 信頼できるリーダーを育てる 10のレッスン
第3部 ピープルインク 資本主義の未来
7 ヒューレット・パッカードの世界観 すべては「あなた」次第だ
8 お金は自分では動かない 投資家が変わる、市場が変わる
9 われわれの新たな責任 価値の変化にどう向き合うか
エピローグ
あとがき ジョージ・ダラス
訳者あとがき
補遺(A・B)

まずは、「ワールドインク」がすでに夢でも明日でもなく現実で今日であることを改めて確認しておこう。

英治出版 | 書籍一覧 | ワールドインク
  • 現在、世界中の国と企業を経済規模で比較すると、上位100位のうち51を巨大な多国籍企業が占めている。
  • 多国籍企業の上位300社は人類の総資産の25%を所有しており、全世界の貿易の40%以上が、その企業間で行なわれている。
  • グローバル経済の中で、新たな深刻な問題がいくつも生まれ、各国政府はまだ、その十分な解決策を見出していない。

早い話、すでに「ワールドプロブレム」は「ソヴリンプロブレム」、すなわち各国政府の問題としてみても解決せず、その解決には「ワールド」のかなりの部分を占める「ワールドインク」が欠かせないということだ。

私は、現在の「ワールドプロブレム」には、三種類の当事者がいると考えている。「ソヴリン」、すなわち国家、「ワールドインク」、すなわち多国籍企業、そして「グラスルート」、すなわち草の根である市民だ。それらを統括する本としてまず「未来をつくる資本主義」が、そして多国籍企業という当事者に関しては本書が、さらに「草の根」という当事者には「ディープエコノミー」が控えている。「ソヴリン」に対応する一冊がまだないのがちょっと残念だが、一番の脇役でもあり、それだけに一番取り扱いが難しいことを考えれば当然かも知れない。

本題に戻る。本書は、そのワールドインクたる多国籍企業を、どうやって20世紀型から21世紀型に転換するかを詳細に述べたものであるが、その骨子は第三部のタイトルにひと言で書かれている。

「ピープル・インク」。

P. 199
しかしHPには、単純な私欲を越えた魅力が存在する。おそらくその魅力は、「大企業は社会の価値を利用したり使い果たしたりするのではなく(これまで大企業は、そうすることで有名だった)、社会の価値を増大させるものだ」という考え方の中にある。

HPが本当にそれに当てはまる企業かということには議論の余地はあるだろうけど、これからのワールドインクの役割がこれであることは疑いの余地がない。そして、大企業を「共有地の収奪者」から「共有地の共益者」とするのに最重要の鍵が、ディスクロージャーであることを本書は喝破する。

それにしても、このDIPシリーズ、傑作ぞろいであり、今のところ読了した分に関しては一冊も外れがない。どうせハードカヴァーを買うのであればこういう本を読みたいというシリーズなのだが、しかしなぜハードカヴァーなのだろう?そのこと自体がDIPシリーズの理念と矛盾しているように感じないでもない。ソフトカヴァーにすれば紙の重さ、すなわち1冊作るのに必要な天然資源が1割は減るような気がするのだが。

Dan the Sustainable Blogger