エクスナレッジ書籍編集部より献本御礼。
努力しても決して幸せになれない理由 - FIFTH EDITIONアラン・グリーンスパンの「波乱の時代」は本当に面白くて勉強になるので、是非とも読んで欲しい本。今日書いた話なんて、グリーンスパンの受け売りがほとんどです。
「波乱の時代(上・下)」でグリーンスパンファンになった人には申し訳ないけど、本書読了後は真実はよりこちらに近いと結論せざるを得ない。
本書「グリーンスパンの正体」は、グリーンスパン本人の発言も含む実データをもとに、19年に渡る彼のFRB議長としての仕事を検証した一冊。
目次 - Amazonより- 謝辞
- 序章 グリーンスパン時代、その真の評価(1987~2006年)
- 第1章 どこまで間違えば気がすむのか?(1973~1994年)
- 第2章 バブル王――「グリーンスパン・プット」の始まり(1995~1997年)
- 第3章 「グリーンスパン・プット」の登場で手持ち無沙汰になるFOMC(1998~1999年)
- 第4章 聖域を牛耳るバブロニアン――限界まで膨らんだバブル(1999~2000年)
- 第5章 株式バブルの崩壊――幻想と判明したテクノロジーの奇跡(2000~2001年)
- 第6章 夢のマイホーム――株式バブルの救世主、住宅バブル(2001~2003年)
- 第7章 手に余る住宅問題――不動産バブルで加熱する住宅のATM化(2003~2007年)
- 終章 恐怖心を失った代償(2007年~)
- 解説――北村慶
- 注
著者達が導き出した結果は、副題にある通り「2つのバブルを生み出した男」というものだった。
その二つのバブルとは、ドットコム・バブルと住宅バブル。前者を後者が打ち消したが、後者の崩壊に世界は今も悩まされ続けている。
それでは何を根拠に、著者達はグリーンスパンをバブルス(そう、複数形である!)の主犯格としたか。
「グリーンスパン・プット」と呼ばれる彼の行動規範である。確かに彼のトラックレコードは、株にしろ住宅にしろ、リスクアセットが下がる都度、彼が金利を下げて来たことを示している。そのこと自体は間違っているとは言えないが、問題は、リスクアセットが暴騰している時にも金利を上げなかったことにあると著者達は説く。
その結果がどうなったか。
投資家達が、FRBに甘えるようになってしまったのだ。「市場が下がっている?グリーンスパン・プットが下支えしてくれる」。その結果が、二つのバブルだと著者達は指摘している。
しかし、金利の上げ下げだけでは著者達がここまでグリーンスパンを批判することはなかっただろう。著者達の批判の理由、それはグリーンスパンが金利だけではなく、発言でもバブルを煽ったことにある。
P. 1942005年4月8日、「消費者金融」と題したスピーチでグリーンスパンはアメリカ中に向け、自分の立場を明らかにした。技術的進歩は、金融サービスの効率を高め、その規模を拡大させました。また金融革命により、サブプライム・ローンや移民を対象としたニッチのクレジット・プログラムなど、無数の新商品が開発されました。(中略)こうした技術革新により、金融機関はより広範囲の顧客に対して、信用評価モデルを活用できるようになりました(中略)これら一連の進歩によりサブプライム住宅ローンの貸出額が急増しました。サブプライム・ローンが住宅ローン残高総額に占める割合は、1990年前半の1~2%から、現在はなんと約10%に増えています。
そうした「金融革命」の結果、何が起こったか?
家が「ATM化」したのだ。日本では考えがたいことなのだが、アメリカの住宅ローンにはMEW = Mortgage Equity Withdrawal という「蛇口」がついている。家の評価額が値上がりしたら、その分現金で下ろせるのだ。こうした結果、1999年末に6兆2000億ドルだった住宅ローン残高総額は、2006年末には13兆3000億までふくれあがった。GDPより多いのだ。ちなみに日本のそれは、「404 Blog Not Found:ゼロ金利借りてくれなきゃ効果ゼロ」で以前紹介した「不動産業統計集2005 | 不動産の物件情報なら不動産ジャパン」によると、1995年に364兆円あった残高が、2004年には226兆円まで減っている。
本書214ページのグラフは、あまりにショッキングだ。2000-2007年の不動産の値動きと、1995-2002年のネット関連株の値動きを重ねたグラフなのだが、双子のように似ている。著者達は「『グリーンスパン山脈』と命名できそうなグラフだ」と揶揄しているが、返す言葉が見つからない。
もちろんこれらのバブルの原因を、グリーンスパンという個人のみに帰することには無理がある。ドットコムを売りまくったアナリストだって、サブプライムローンを開発したバンカーだって、あくまで民間セクターの人々だ。しかしグリーンスパンが、単なる金利の操舵主ではなく、バブルの「実行犯」たちのメンターだったという事実はぬぐいようがない。
「波乱の時代」とは、そのグリーンスパンの自伝のタイトルである。市場参加者たちは、彼は波乱を治めたのか、それとも煽ったのか、本書を読んで改めて考えてみる必要があるだろう。
Dan the Man in the Age of Turbulence
そりゃ、実際にそれをやって十年不況に突入し、大量の若者を路頭に迷わせる羽目になった国を目の前で見ていますからね・・・。
>ドットコム・バブル
その恩恵を受けた人って日本にもいたような気が・・・。IT企業の上場益で儲けた人とか。