集英社新書編集部より献本御礼。

すぐに書評したかったのだけどやっとAmazonでも発売が開始されたので。

経済、そして経済学に「なんだか騙されている」と感じている人、必読。

本書、〈「お金」崩壊〉は、「確かに経済学者たちの言うことはつじつまがあっているのに、なぜそこに違和感が残るのか」を明快に説明してくれる一冊。弾流の言い方をすると「複素経済学入門」ということになる。

「お金」崩壊| 青木 秀和| 集英社新書|BOOKNAVI|集英社
私たちのお金はどこへ行ってしまうのか?
私たちが貯蓄する「お金」は公の借金返済に投入されている。しかし、それは返せる当てのない借金だ。もはや、「お金」には実体も価値もない。こんな社会からの脱却を呼びかける、新しい経済論。
目次 - 手入力
第一章 空洞化する貯蓄
第二章 なぜ公の債務は増え続けるのか?
コラム 夕張市に凝縮された自治体の昨日、今日、明日
第三章 お金の本質
第四章 お金を〈冗談〉にしないために
コラム 軍縮を語らない「温暖化防止キャンペーン」のインチキ
おわりに

すでに経済学をある程度学んできた人は、本書の215ページをご覧いただきたい。以下の図が目に飛び込んでくるはずである。この図の掲載許可を下さった著者ならびに編集部に感謝を。

two-economies

これこそが、「複素経済学」の全体図である。上の円が虚部、下の円が実部。上では資金が、下では資源が循環している。上をeconomy、下をecologyと言い換えてもいいだろう。

この図は、市場経済に対する違和感の根本原因も明らかにしてくれる。エコノミストの話からは、下の円が抜け落ちているのだ。しかし、エコロジストが話をする時には、上の円が軽視されているかすっぽり抜け落ちていることが多い。

この図一枚のためだけでも、本書は入手しておく価値がある。

それでは本書のタイトルの命題、お金はなぜ崩壊しうるか。

今やお金の大部分が、上の円に属するからだ。上の円は「虚部」。人間の共同幻想が生み出しているからだ。もう少し正確に言うと、ブレトン・ウッズ体制が崩壊、貨幣が「無本位制」になったときに「虚」となったと言える。

P. 150
世界の金融資産は、一九九五年からの一〇年間、六〇九五兆円(五十三兆ドル)からなんと一京三八〇〇兆円(百二十兆ドル)にも達している。にも関わらず、この間に世界総生産は、三〇〇〇兆円(二六兆ドル)から四〇〇〇兆円(三五兆ドル)になったにすぎない*11。
  1. http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/contribute/g/02/index4.html

GGP (Gross Global Product)が3割増しにしかなっていないのに、金融資産が倍以上になる。なぜそれが可能になったかといったら、金融経済が完全に「仮想化」されたからだ。「モノ」の裏付けがないからこそ、たった10年で倍以上(年率8.5%)という「成長」が可能になったのだ。

それだけなら、問題とは言えない。「その分インフレが進んだだけ」という言い方も出来なくはない。問題は「虚経済」の急成長に耐えられるほど「実経済」が大きくないこと、にも関わらず両方の経済がリンクしていることにある。虚が虚、実が実だけで回っているならいい。しかし圧倒的に多きな虚で実を手に入れようとした時、実はどうなってしまうのだろうか。

本書は、「今そこに問題がある」という世界経済の診断書である。私もここまでは気がついていた。気がついていたからこそ「複素経済学」などという言葉をでっちあげたわけだ。しかし、さすがの著者も処方箋までは提示していない。著者ですら「金本位制に戻れ」とは言えないのだ。

どうすればいいのか、私も答えを持ち合わせているわけではない(いや、実は一つ考えているのだが、それは本entryの範囲を越える)。しかし、そこに問題があること、なぜそれが問題となるのかは、治療法を考えるためにも必要なのではないか。

Dan the Complex Economist