著者の娘さんより献本御礼。実は自分でも以前購入していたのだけど、書評が遅くなってしまったおかげで二重入手になってしまって申し訳ない。
404 Blog Not Found:経済の「複素」像 - 書評 - 「お金」崩壊経済、そして経済学に「なんだか騙されている」と感じている人、必読。
これもそういう一冊に分類できる。
本書〈「民」富論〉は、システムエンジニアとして活躍した著者が、定年退職後に独学で経済学を研究した結果を新書にまとめたもの。
目次 - 堂免信義『「民」富論/誰もが豊かになれる経済学』の目次 - 社会福祉学何でもあリBLOGより拝借- 序章 財政赤字は国民への贈与になる
- 第1章 景気拡大と同時に進行した不況
- 第2章 社会全体では「節約はできないが贅沢はできる」
- 第3章 全員は儲からない(金持ちが儲けるのは貧乏人のおかげ)
- 第4章 国内総生産は多ければ良いというものではない
- 第5章 企業利益の一部は公(おおやけ)のカネである
- 第6章 高い国産品の代わりに安い輸入品を買うと国民の収入が減る
- 第7章 グローバル化による生産性向上が格差を広げる
- 第8章 グローバル化にどう対応するか
- 終章 経済学というミステリー
素人といえば、素人ということになるのだろうが、むしろ素人であるが故に、偏見にとらわれずにアダム・スミスの「国富論」を読み解いたことを、「石油神話」の藤和彦はこう賞讃している。
藤ウィークリーレポート2008.01.24 2008年を占う(その3)[現在は記事がexpire; 献本者の添え状より孫引き]
アダム・スミスの「国富論」は引用されることが非常に多いのですが、その本をしっかり読み込んだ人は極めて少ないと言われています。その古典を導師が読み込み現在の状況に照らして解釈した結果が、これなのです。
〈「お金」崩壊〉のキモが最後の図にあるように、本書のキモは最後の表にある。
P. 224
誤っているに常識 事実 1 貯蓄が投資の源泉 貯蓄→投資 投資が貯蓄の源泉 投資→貯蓄 2 意図的な貯蓄は経済成長に貢献する 意図的な貯蓄は経済成長を阻害する 3 個人金融資産があるから国債を発行する 国債を発行すると個人金融資産が増える
これらの知見は信じがたいことではあるが、本書を読んだ後だとかなりの説得力がある。
以上を踏まえた上で、本書は以下の提案をしている。藤ウィークリーレポートからその箇所を引用しよう。
「日本人は、暮らしは貧しいのに余計なものを作って壊しているから、稼ぎが多い。」。この観点から筆者は日本の「短命住宅」を批判し、「200年住宅」を推奨します。
さらに、「医療・介護水準は生活水準の一環」と位置付け、医療・介護費の伸びはGDPの伸びを上回ってもよいという新しい認識を持つべきだと指摘します。
私は、本書の知見には納得したが、本書の提案には賛成しかねる。まず「200年住宅」。確かに日本の住宅の寿命は短すぎる。が、200年というのは長過ぎる。著者は200年どころか20年で生活がどれだけ変化しうるかということに少々無頓着なのではないか。私の実家は家事で消失するまでは築150年の代物だったが、冬の寒さは格別で、縁側を隔てているにも関わらず、朝目覚めると部屋の中の水が凍っているという代物だった。おんぼろというわけではない。かつてはそれが日本の古き佳き住宅だったのだ。実際それを建てた私の先祖は大地主で、わが実家は「お屋敷」だったようである。私の代になる前に財産はあらかた食いつぶされて、私はその恩恵をほとんど受けていないのだが、もしこの先祖の霊が現れて感謝を求めてきたら、私は thank you ではなく fuck you と言うはずである。
はっきり言って、200年後の子孫が家屋に何を要求するのかを読むことは不可能だ。そもそも200年前は電灯さえなかった。照明器具の位置一つとっても現代とは異なる。電線はどう引く?電話線は?イーサネットは?
骨組みぐらいなら用意することが出来るが、200年そのまんま住宅なんぞ、子孫の方で願い下げだろう。むしろなるべく簡単にリフォームできるようにしておくこそ肝要だと思われる。
医療、介護費の伸びに関しても然り。これらは実際に伸びているが、なぜ伸びているかと言えば寿命が伸びて、それだけ医療・介護費を必要とする期間が伸びたからだ。すでに国民医療費の75%を高齢者が使っているという事実を忘れてはならない。産科が足りないのに介護を増やせというのは、若い世代から見れば言語道断である。
微妙なのが、地産地消のすすめ。確かに現在の枠組みは、日本国外の天然資源がただ同然に安いことを前提に組み立てられており、そのままではうまく行かないのは目に見えている。しかし地産地消というのは、裏を返すと「日本だけがよければよい」ということになる。EUの域内補助金がアフリカ諸国をどれだけ苦しめているかというのを考えれば、地産地消もどんだけ、である。
とはいうものの、これらの議論の「正しさ」は定性的なものではなく定量的なものであるはずである。200年住宅は願い下げだが、しかし家屋の Reduce/Reuse/Recycle は勧めたい。医療・介護費だって、高齢者に偏らなければもっと増やして欲しい。自給率を上げるためなら何でもするというのは願い下げだが、QOLの向上を追求した結果、自給率が上がったというのであれはそれはそれでよい。
このあたり、そろそろ定性的な議論ではなく定量的な議論が欲しいところである。それこそがプロの仕事だと思うのだが....
Dan the Complex Economist
この表の「事実」は、まんま標準のマクロ経済学のような気がしますが・・・。
(cf.http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50584078.htmlでの小生コメント)