「いちばんやさしいファイナンスの本」は日本能率協会マネジメントセンター杉崎様経由で著者より、「アメリカの高校生が読んでいる経済学の教科書」はアスペクト貝瀬様よりそれぞれ献本御礼
教科書の日米対決、軍配はどちらに!?
「いちばんやさしいファイナンスの本」も「アメリカの高校生が読んでいる経済学の教科書」もどちらも超初心者向けの本なのだが、前者は「全年齢向けだけどどちらかというと高齢者」というやや曖昧な想定読者に「投資先を知るためのファイナンス」というかなり絞った話題を説いている対し、後者はタイトルにもあるように「高校生以上社会人初心者」というかなり明白な想定読者に「経済学一般」というかなり曖昧な話題を説いているという好対照の二冊である。ついでに値段も全く同じ、税込み1680円である。
「いちばんやさしいファイナンスの本」目次 - いちばんやさしい ファイナンスの本 >JMAM出版より- はじめに
- 序 章
- 決算書は読めなくても大丈夫
- 第1章
- ファイナンスの全体像
- 第2章
- ファイナンスの基本
- 〜まずは経営分析の指標から〜
- 第3章
- ファイナンスの実践
- 〜バランスのよい資金調達の方法とは〜
- 第4章
- ファイナンスの応用
- 〜M&Aが起こる背景とキャッシュフロー経営の考え方〜
- 第5章
- ファイナンスの実務
- 〜企業のM&A戦略と実践〜
- コラム
- 推薦図書
- おわりに
- はじめに 「72のプリンシパル」
- 第1章 家計の経済学 - どうすればお金を増やせるのか?
- 希少性 Scarcity - 資源は有限、人間の欲望は無限
- インセンティブ Incentive - 人間の選択は損得に左右される
- 効率的な選択 Economic Choice - たくさんの選択肢からどれを選ぶ?
- 取引とお金 Trade and Money - 取引とはみんなが得をするシステム
- 労働 Labor - 給料は雇用主と労働者の気持ちで決まる
- 税金 Tax - 道路、橋、学校、公共サービスの提供に必要なお金
- 利息 Interest - 預金の金利はガマンに対する見返り
- 第2章 企業の経済学 - 経営者は利潤の最大化を目指す
- 起業家 Entrepreneur - より大きな報酬のために起業する
- 企業 Enterprise - 個人的欲望の充足 VS 利潤の獲得
- 企業は競争する Productivity - 競争が技術進歩と経済成長を生む
- 均衡価格の作り方 その1 市場価格 Market price - 買い手と売り手の間には市場がある
- 均衡価格の作り方 その2 消費者の気持ち Demand curve - 価格はインセンティブのシグナルを送る
- 均衡価格の作り方 その3 売り手の気持ち Supply curve - 価格はお互いの気持ちで決まる
- 賃金 Pay - 賃金は労働力の需要と供給で決まる
- 第3章 金融の経済学 - 銀行から上手にお金を借りる方法
- 家計と銀行 Savers and borrowers - あなたの信用で利息は決まる
- 企業と銀行 Financial intermediaries - 銀行はお金の仲介者
- 金利 the rate of interest - 金利は景気のブレーキとアクセル
- パーソナルファイナンスで見る金利 Personal Finance - 固定金利と変動金利
- 第4章 政府の経済学 - 市場も政府も失敗をする
- パーソナルファイナンス 国債編 Personal Finance/Government bond - 国債の利回りで景気がわかる
- 財政政策 Public Finance - 政府は企業の代わりに公共財を作る
- 経済成長と生産性の向上 Improvement of productivity - 企業は生産性の向上を目指し、政府は経済成長を目指す
- 市場の失敗 Market failure - 市場は不完全だった、そして政府も不完全だった
- 第5章 貿易の経済学 - 日本は再び鎖国できるか?
- 貿易 International trade - 自由貿易は世界全体の生活を豊かにする
- 外国為替相場 Foreign exchange market - 為替レートは通貨の需要と供給で決まる さくいん
それでは、どちらが優れた超初心者入門か。
「いちばんやさしいファイナンスの本」の方である。
なぜか。
これは一目見ればわかる。「アメリカの高校生が読んでいる経済学の教科書」には、貸借対照表、バランスシートが一カ所も登場しないのである。経済学の許可書でおなじみの予算制約線と無差別曲線の組み合わせは出てくるのに。金融リテラシーで最も役に立つB/Sが全く登場しないのである。
これでは、かの国で年間140万人も自己破産者が出るのもやむえない、と、妙な納得をしてしまった。
対して、「いちばんやさしいファイナンスの本」には、当然B/Sも出てくる。というか、ファイナンス入門で出てこなければもぐりではある。とはいえ本書は著者も
ちょーちょーちょーいい感じ:『いちばんやさしいファイナンスの本』を出版しました!前書きに書きましたが、本書では、「いかに楽して、手抜きして必要最低限のことだけを習得するかを主眼に置きました」。タイトルの通り、とにかくやさしいファイナンスの本です。本のレベル感で行くと、前作「企業ファイナンス入門講座」よりも圧倒的に初級です。
と述べているように、「企業ファイナンス入門講座」のダイジェストなので、同書を読んで納得した人はわざわざ読まなくてもよいだろう。逆に同書が難しすぎた人にはかなりのおすすめだ。通常なら四六版におさまる内容をわざわざA5版にして、活字も大きいので老眼の人でも大丈夫。
それでも、両書を読んで嘆息してしまった。
なぜ、人生のもっと早い段階で複式簿記を教えないのか、と。
確かに複式簿記が義務なのは法人ないし簡易申告でない青色申告者のみではある。しかしあれは家計にだって使えるのだ。自分がいくら借金をしても大丈夫なのかも、B/Sがあればたちどころにわかる。給料日前の給料を「売掛金」(Accounts receivable)、未払いの請求書を「買掛金」(Accounts payable)として考えるだけでもかなり違う。日米とも義務教育で複式簿記を教えないのは、政府の陰謀ではないだろうか。
かく言う私も、複式簿記でものごとを考えるようになったのは自営をはじめて、それもしばらく経ってからだ。それ以前はP/Lでものごとを考えていた。アルバイトまで含めれば、7-8年はタイムラグがあったということだ。ああなんともったいない。
個人のための、家庭のための複式簿記の入門を作れば、飛ぶように売れるのは間違いないと思うのだけど。私が読んだ中で、それに最も近いのが「国語算数理科しごと」なのだが、それですらあくまで商売を例題としていて、家計、それも給与所得者の家計に複式簿記を応用してはいない。
経済学という「数学」は後回しでいい。まずは会計という「算数」を先に教えて欲しい。
Dan the Bookkeeper of His Own
○ → 経済学の教科書でおなじみの