あら、こんなところに名前が。

せっかくなので、学歴について思うところを書いておく。

確かに、IT業界というのは、私を含め低学歴者が高地位にいることが多く見られる。日本のような弱学歴社会ならまだしも、合州国のような強学歴社会においてもそうだ。たとえば Hotel DAN のゲストの一人、Jonathan Rockway もその一人。23歳にした単著持ちの彼だが(サインもろた)、U of Chicagoを「つまらないから」とやめてしまった。私自身がドロップアウトということもあるせいか、私のまわりには学歴からはぐれた人が多く集まる。そこだけ見ていると、「やはり学歴は大したことはないのか」という気持ちになってもおかしくない。ちょっと罪作りな勘違いである。

なぜか。

学歴とは、まさに梅田望夫の言うところの「知の高速道路」だからだ。

高速道路だけあって、目的地がはっきりしていて、かつそこにインターチェンジがあれば迅速にそこにたどり着くことが出来る。裏を返せば、インターチェンジから遠い場所には、あいかわらず下を通っていくしかない。なぜIT業界で低学歴者がまかり通るように見えるのかという秘密がそこにある。あまりに急成長しているので、高速道路の建設が追いつかないのだ。これは実際の都市の成長にも似ている。急成長した都市の交通インフラが貧弱なのは世界のあちこちで目にする事実だ。

小飼弾のアルファギークに逢ってきた」#10 達人プログラマー Dave Thomas
弾:ソフトウェアエンジニアとしてもっとも重要なのはなんでしょうか。何をもってソフトウェアエンジニアというのでしょう。
Dave:ソフトウェアエンジニアというものはありません。少なくともまだないです。どういうことかというと、これ以上削れないところまで削るのがエンジニアリング。これ以上削れないところまで削るということは、どこまで削るとそれが壊れてしまうかというのがわかっていることです。まだソフトウェアに関しては我々はそのレベルには達してないんです。達してないから、まだソフトウェアエンジニアという言葉というのは嘘である。

これまた裏を返すと、エンジニアリングが成立するほどこの業界が成熟したら、そこにまで高速道路が延伸され、インターチェンジも出来るだろう。いや、エンジニアリングはとにかくサイエンスはもうある。 博士号だって取れる。Googleのようにそういう人材を好んで採用する企業だってある。

にも関わらず、いまだにソフトウェアの世界では「下を走ってくる」奴が上に行く余地がどっさり残っている。理由は二つある。

一つはインターネットという別の高速道路網が存在すること。ソフトウェア「エンジニアリング」に限って言えば、こちらの高速道路の方が学校という高速道路よりもずっと充実している。しかも料金ははるかに安い。わざわざ「学歴高速道路」に乗るのはかったるくて仕方がないだろう。

しかし、もう一つの理由を忘れてはならない。それは、ソフトウェア「エンジニア」になるための投下資本が実に少ないということ。必要なのは、基本的にパソコン一台とネット回線だけだ。なぜ必要資本が少ないと学歴の必要度が下がるのか。

それは、学歴が資本調達のための「与信」としても機能するからだ。同じ金を貸すのであれば、中卒の金貸しですら学歴がない者よりもある者に貸すだろう。そして、投下資本が大きくなればなるほど、多くの「裏付け」が求められるのは自然なことである。

実は、ソフトウェアエンジニアリングも、パソコン以前は結構学歴の裏付けが要求される世界であったようだ。冷房完備の奥の間に鎮座たてまつるメインフレーム大明神に謁見するにはそれなりの資格が必要だったというわけだ。私の時代ですら、「まっとうな」Unixに触れるには大学に行くしかなかった。

それが今や、私の娘たちが使う iMac にすら入っている。わざわざ12年もの学校生活と何百万円もの学費と引き換えにするには、学ぶ環境はあまりに身近に存在するのだ。

弾:じゃあ、我々がやっていることは何て呼んだらいいんでしょう。
Dave:コーディング。

上の会話が成立するうちは、まだまだドロップアウトたちがこの業界でまかり通る余地はある。

とはいえ、世の中の全てがIT業界になったわけではない。むしろIT業界のありようこそ異常で、高速道路とインターチェンジが完備している業界の方が多いのだ。そういう業界に行くのに、わざわざ下の道を通る必要はない。到着する頃には、駐車場は埋まってしまっているのだし。

というわけで、とりあえずの結論。

「上にはぐれた連中」を見て、「オレも大丈夫」と言う前に、自分がどっち側にはぐれているのか確認しておきなさい。

自信がなければ、学校に行っときなさい。

それでもはぐれることを決めたなら、泣き言は封じてしまいなさい。

Dan the Dropout