ランダムハウス講談社の常磐様より献本御礼。

あの講義が、早くも邦訳され、DVD付きの一冊となった。

だまされたと思って、いやだまされるために見ろ、そして読め!

だまされればだまされるほど、感動と感謝が深まるから。

本書「最後の授業」は、Carnegie Mellon Universityの名物教授にして、末期の膵臓癌の Randy Pausch の最後の講義を、あらためて一冊の本にまとめ、DVDに収録したもの。この講義はすでにYouTube経由で2,500万人もの人々が目にしたという。

目次 - 最後の授業 - ぼくの命があるうちにより
はじめに
第1章 最後の講義
第2章 僕はこうして夢をかなえてきた
第3章 僕を導いてくれた人たち
第4章 夢をかなえようとしているきみたちへ
第5章 人生をどう生きるか
第6章 最後に
謝辞
カーネギーメロン大学について
訳者あとがき
著者・訳者紹介

末期がん患者による著作というのは、失礼ながらまるでそれ自体が癌であるかのごとく世に浸透している。フィクション、ノンフィクションを問わずこれをテーマにした本は数知れず、ベストセラーも少なくない。「世界の中心で、愛を叫ぶ」も、その無数の「細胞」の一つに過ぎない。

それゆえ「末期がんもの」は絶大な人気がある一方、埋もれやすいのもまた事実だ。これまでいくつの「末期がんもの」が書かれ、映像化され、そして忘れられていったのだろう。年に数冊しか本を読まない人ならとにかく、本を読む人である人であるほど、「またかお涙ちょうだいか」という気分が強いのではないか。

しかし、著者は違う。著者が求めているのはあなたの涙ではない。特設ページには「全米600万人が涙した」とあるし、これは嘘とはいえないが、もし本書で泣くのだとしたらそれは死に逝く著者に対する悲しみの涙ではなく、笑い(すぎ)による涙であるはずだ。梅雨の雨を期待した人には申し訳ないが、本書は狐の嫁入りである。

まずは本書をひも解く前に、DVDをご覧頂きたい。YouTubeのそれでも構わないのだが、YouTubeのそれは画質が低くて、講義はとにかくスライドが見にくすぎる。本書はDVD付きと書籍のみの二種類があるが、よってDVD付きをお勧めする。

その上で、改めて本書を読んでいただきたい。感動の天気雨が心にしみわたって地が固まっていくのがわかるはずだ。逆は避けるべきだ。最後の授業は冗句も満載で、笑える場所でも笑えなくなってしまう。

一つだけ、ネタバレになってもいいのを紹介する。幸いなことにこれは著者のオリジナルでないので。

死を目前にして、改宗しました。
Mac派に。

著者は終始この調子で、聴衆から笑いを取りまくっている。そう。著者は一流のエンタテイナーであるが故に、一流の大学で一流の研究職を手に入れたのだ。これは比喩ではない。彼の学部時代の指導教授だった、Andy van Damがそれを見いだしたのだ。

P. 204
アンディ・ファン・ダムが行った。「博士号を取りなさい。教授になるといい」
「どうして僕が?」 「きみはセールスマンの才能があるから。企業に努めたらセールスマンとして働かされるだろう。どうせセールスマンになるなら、それだけの価値があるもんを売るんだ--教育をね」

そして一流のエンタテイナーは、伏線を仕掛けておくことを忘れない。

著者の最後の授業には、テーマが三つある--ことになっている。

  1. 自分がどうやって夢をかなえてきたか
  2. どうすれば他者の夢を叶えることを手助けできるか
  3. これまでの教訓

実は、これが見事な「孔明の罠」になっている。英語では"head fake"、「頭のフェイント」と訳されているこの言葉は、最後の講義、そして本書を通して何度も顔を出す。あなたは何度もこのフェイントに引っかかるだろう。そして引っかかったことに感謝するはずだ。

そして最も感動的な head fake が、本書の最後にやってくる。あれにはヤラレタ。お見事。

というわけで、私も著者にあやかって、本entryのタイトルに head fake を仕掛けることにした。講義を最後までご覧になればすぐに解けるはずだ。

そうそう。本entry現在も、著者は「期待を裏切って」存命である。その様子はRandyPauschInformationで確認することが出来る。残念ながら癌細胞には著者のユーモアは理解されないらしく、絶賛転移中の絶賛増殖中であり、死期が一日ごとに近づいていることは疑いの余地もないが、当初の「六ヶ月」は見事に裏切ってくれた。最後の瞬間まで注目せずにはいられない。

それにしても、なんという head faker であることか。著者から教育を買ったら人生が付いてくるとは。この作品は、掛け値無しで「買い」だ。だまされたと思って、いやだまされるために入手して欲しい。あなたはそれを絶対感謝するはずだ。

Dan the Head-Fak(ed|er)

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