ディスカヴァー社よりいつものように献本御礼。

そしていつものように、俺100に先を越されている....けど、今回はorzとはならない。

ワンランク上の問題解決の技術《実践編》 視点を変える「ファンクショナル・アプローチ」のすすめ:[俺100]
そんなわけで、私は公共工事の設計を発注する仕事を以前していたこともあったのですが、このように優しくて頭の良い方にずいぶん助けられたものでした。当時は、「ずいぶん偶然いろいろなモノを持って歩いてるな」と、単純に思っていましたが、私がバカだったんです。ごめんなさい!
本書では、その建設コンサルタントの優秀な(技術士を二部門も持ってる!)技術者の問題解決の手法を伝えています。

なぜなら、本書に関して、私は聖幸さんほど適切な書評は書けないからだ。

聖幸さんが私のようにオライリー本の書評を書けないのと同じで。

それでもなお、書いておいてしかるべきことがあるので書いておくことにする。

本書「ワンランク上の問題解決の技術[実践編]」は、機能工学(FE)について書かれた一冊。それではFEとは何か、「それはなにか」ではなく「それはなにをするのか」に着目することによってものごとを改善する技術である。そして「ワンランク上」とは、「なにか」から「なにをするのか」へを指している。

目次 - Discover: ショッピングカートより
まえがき
1章 ワンランク上の問題解決とは
1 解決のカギは「問題の認識」と「改善点の特定」
2 問題解決がうまくいかない4つの理由
3 「その努力は何のため?」
4 問題に直面したときの4つの志向パターン
5 改善点を見つける5つのアプローチ法
6 ファンクショナル・アプローチで視点を変える
2章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ1 準備
1 5つのツールを準備する
2 より効果的な解決手段を見つける5つのヒント
3 「準備→分解→創造→洗練」の手順で考える
4 解決すべき対象(テーマ)をあらためて認識する
5 対象(テーマ)をパーツに分解する
3章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ2 分解
1 分解したパーツを「名詞+他動詞」で表現する
2 付箋紙を使ってファンクションを整理する
3 キー・ファンクションを見つけ出す
4 キー・ファンクションの価値を測る
4章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ3 創造
1 アイデア発想の原理を知る
2 5つのアイデア発想技法を使いこなす
3 出てきたアイデアを分類・整理する
5章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ4 洗練
1 アイデアを練って、練って、練り上げる
2 解決手段を組み合わせる
6章 日常をファンクショナル・アプローチで考える
1 見聞きするもの、手に触れるものをテーマにする
2 「何のために?」「誰のために?」に答えてみる
3 キー・ファンクションを見つける
4 価値のグレードを判断する
5 もし改善するなら、どのようにするかを考える
終章 ファンクショナル・アプローチは羅針盤である
ファンクショナル・アプローチは“羅針盤”
ファンクショナル・アプローチで就職活動を乗りきる
ファンクショナル・アプローチで職場の残業を減らす
ファンクショナル・アプローチで最高のプレゼンテーションをつくる
ファンクショナル・アプローチでクレーム対応を改善する
表現された結果からファンクションを見いだす
あなたこそが羅針盤
付録 ファンクショナル・アプローチ・シート

本書の内容にしては、ほとんど異論ない。著者に限らず、エンジニアであれば多かれ少なかれやっていることであり、エンジニアであれば、むしろ「そうだったのか」という驚きよりも「なにを今さら」という感想すら抱くかも知れない。しかし、いざ自分の持ち場を離れたエンジニアが、本書の掲げるFEがきちんと出来ているかというと案外そうでもない。エンジニアの世界ほど紺屋の白袴が成立する世界も珍しいぐらいだ。

むしろ本書を読んで感じたのは、「著者は自己紹介が足りないのでは」ということ。「一兆円分の公共事業で2000億円コスト削減」というカバーの紹介を見ても、申し訳ない事に「すごい著者だな」と素直に思うには、私はあまりにスレたオヤジである。二言目には「明細書どこ」というのが私である。本書で一番弱いのはこの部分ではなかったか。

これが、「一億円の予算で2000万円」だったら、「明細書」を要求する気にはさほどならない。「100万円から20万」ならなおさらだ。これらはいずれも比率から行けば同じだが、総額が増えるとこの「信憑性担保コスト」も上がるのだ。

この信憑性を担保するには、二つの方法がある。「明細書」と「コネ」だ。明細書の効用は説明するまでもないだろう。「いざとなったらご自身でご確認ください」というわけである。たとえ実際に照会されることがなくとも、明細書の存在そのものが安心となり、保険となる。

残念ながら、本書には明細書が足りない。「受託開発の極意」の時に感じたのと同様の不満を、私は本書に感ぜずにはいられなかったのだ。

それを補完し、時には明細書以上に大きな担保となるのが、「コネ」である。「全米が泣いた」「○×氏絶賛!」というオビを出版社が欲しがるのは、まさにこれが理由なのだ。聖幸さんの書評は、まさにこの役割を果たしている。書評家にして建設コンサルタントと一緒に仕事をしたことがある聖幸さんは、この役割にうってつけだ。著者に対するクレディビリティへの疑念は、これで終了である。

しかし、もう一つの不満は、未だ解消されていない。それは「たった2000億」ということである。2000億と書くと大きな数字に見えるが、2割である。個人的な印象として、FEを駆使しての2割というのはかなり少なく感じてしまうのだ。これは私がソフトウェア・エンジニアであることに起因するバイアスだと知りつつも、それでも「たった二割」というのが率直な印象である。

例えば私は、まさにFEの理念を駆使してデータセンターを構築したことがある。建物を含めて考えれば数百億円と数年の年月が必須なのだが、私はそれを数億と数ヶ月でやった。このあたりの詳しい経緯は「小飼弾のアルファギークに逢ってきた」のインタビューで答えたのでそちらでご確認頂くとして、まさにこの時私がとったアプローチが、著者の言うFEなのだ。私が欲しかったのはあくまでデータセンターの「機能」であり、データセンターという「品」ではなかった。

別に自慢したいわけではない(そう受け取ってもらっても屁でもないが)。実はこの手の話というのは、ITの世界では顕著に見られる。ちょっと設計を変えたらパフォーマンス数百倍なんてのは珍しい話ではないのだ。なまじこの世界にいると、ものごとの進歩を対数スケールで測ってしまう癖がついてしまうから困ったものだ。「100倍」ではなく「二桁」というわけである。

もちろん、著者が成し遂げたのが「わずか」二割であるのにはわけがある。著者に権力が欠如していたからだ。そもそも「機能」を抜き出す過程でごっそりと「人員」も不要なことが判明することも珍しくないはずのFEにおいて、実は最も重要なのはそれを押し通す力、すなわち権力である。著者はコンサルタントという「外様」。権力はゼロである。それで二割というのは実は大したものなのである。

....ということは脳ではわかるのだが、私は「対数スケール」の世界にあまりに長くいる私の脊髄は、やっぱり「たったの二割」という信号を送ってしまうのだ。もうワンランク上ぐらいでは満足できないのだ。スケールフリーに染まってしまったこの身には。

しかしここでは、むしろ「二割」ではなく「2000億」に着目すべきなのだろう。裏を返せば、まだ「ワンランク」も上がっていない業界もあまりに多いということである。まずはランクを上げてみよう。スケールフリーはその後だって構わない。

Dan the Software Engineer

追記:本書の値段が1,785円なのは、ワンランク上だから?