バジリコ社安藤様より献本御礼。
よく考えると、著者の本を献本いただくのははじめてかも知れない。
今までの「内田樹blog本」の中では、最もよくまとまった、いやよくまとめた一冊である。よくまとめてあるだけあって、blogそのものを読むよりも圧倒的に速く内田樹の思想を理解できる--その耐えられない軽さをも含めて。
本書「こんな日本でよかったね」は、"Yet Another 内田本"である。養老孟司と同様、どの本も同工異曲であるのが内田本の特徴であるのだが、それだけに、その本の差は著者というより編集者の差であり、そして今まで読んだ中では最もよく編集された一冊であると感じた。
目次 - basilico - こんな日本でよかったね─構造主義的日本論 / 内田樹(著)より- 1章■制度の起源に向かって
- 言語、親族、儀礼、贈与
- 2章■ニッポン精神分析
- 平和と安全の国ゆえの精神病理
- 3章■生き延びる力
- コミュニケーションの感度
- 4章■日本辺境論
- これが日本の生きる道?
実のところ、私は「今までの日本」に関しては著者にかなりの部分同意する。構造主義ほど、「おもかげを残したままでうつろい行く」この国のありようを的確に捉える手法もないからだ。内田本が売れているのも、そこに「なるほど」がしっかり詰まっているからだろう。
内田本というのは、発注者が喜ぶ自画像のようなものだ。本人が「ここは今イチ」と思っているところは華麗にスルーし、「ここは強調して」と思っているところはそう強調されている。「ありのままを描け」というのは構造主義の名の下に「できない」ことになっている。しかもそれが編集によってより効果を増しているのである。
だからこそ、「これからの日本」に関しては「よかったね」とは言い難いのである。
著者の言う「こんな日本でよかったね」という日本を成立させている前提条件が崩れつつあることまで、華麗にスルーしているのが著者なのだから。
オビより「少子化問題」は存在しません!
「根本的な変革」はしてはいけない!
「格差社会論」に基づく社会改良政策は、ますます「金で苦労する人」を増やすだけ!
日本は「辺境」で「属国」、それで何か問題でも?
日本がこれから目指すべきは、「フェミニンな共産主義」です!
「『少子化問題』は存在しません!」にしてからが笑止である。もし日本の人口が半分だったら、内田本の売れる余地はあるだろうか、考えるまでもない。「日本は「辺境」で「属国」、それで何か問題でも?」中国の属国となることをよしとする方、手を挙げて。
結局 fashionable な著者の何が nonsense なのかといえば、「日本が日本で居続ける」ためのコスト意識の欠如に集約される。著者自身が、日本という構造による受益者なのに、その負担を「他の日本人」、もっと具体的には「著者より若い日本人」に求めているようにしか読めないのだ。
これは、著者、というよりも著者の世代の人々に共通する構造でもある。日本に「根本的な変革」を求めたのも彼らなら、「「少子化問題」は存在しません!」と言いつつ厚労省に「オレの年金どうなってるんだ」って詰め寄っているのも彼らである。
「こんな日本でよかったね」、そんな日本の維持費を担がされている今の30-40代には口が裂けても言えない台詞である。本当なら、彼らほど「こんな日本でよかったね」と言いたい人々もいないはずなのに。
しかし、そんな著者たちに今の30-40代はやさしい。実のところは自分達のことだけで精一杯なだけなのだが、少なくとも団塊の世代がやったように上の世代を吊るし上げるようなことはしていない。
しみじみ、思います。
「こんな日本でよかったね」、上の世代のみなさん、と。
Dan the Japanese by Method
中読めばどう考えたって、このタイトルや帯文句は釣りw
何人か完全に釣られてるねw