自腹購入。こういう本があるから、献本だけには頼っていられない。

スゴい病気に対するスゴい対抗手段を、スゴい著者がスゴくわかりやすく書いた本。

スゴ本の定義に全てあてはまる一冊だ。

本書「ガンマナイフ」は、タイトルどおり、ガンマナイフを中心に、ノバリス、サイバーナイフといった次世代の放射線外科装置まで解説した一冊。

目次 - 平凡社[平凡社新書 − ガンマナイフ]より
はじめに
がんは国民病である / ガンマナイフと「放射線外科」
第一章 放射線治療とは
放射線をなぜ治療に用いるのか / 放射線治療の種類 / レントゲンに始まる治療の歴史 / ガンマナイフの登場 / CT、MRIによる画像診断の進歩 / 進化する定位放射線治療 / 副作用としての放射線障害 / 放射線治療はどのようながんに適しているのか / 脳という臓器──その特殊性と治療上の問題点
第二章 がんと定位放射線治療
外科手術の特徴 / 放射線治療のメリットとデメリット / 定位放射線治療はいくらかかるのか / 「治癒」と「制御」
第三章 ガンマナイフ治療の実際
定位放射線治療の意義 / ガンマナイフの構造 / ガンマナイフで治療できる疾患
  1. 頭蓋内腫瘍
    (1)転移性脳腫瘍 / (2)聴神経腫瘍 / (3)髄膜腫 / (4)神経膠腫(グリオーマ) / (5)脳下垂体腺腫 / (6)頭蓋咽頭腫 / (7)松果体腫瘍 / (8)脳悪性リンパ腫
  2. 頭蓋底腫瘍
    (1)脊索腫 / (2)グロームス腫瘍 / (3)鼻咽頭がん / (4)腺様嚢胞がん / (5)網膜悪性黒色腫ほか
  3. 血管性病変 (1)脳動静脈奇形 / (2)海綿状血管腫 / (3)脳動静脈瘻
  4. 機能的疾患
  5. (1)神経痛 / (2)頑痛症 / (3)癲癇 / (4)パーキンソン病
  6. 眼科疾患
第四章 ノバリス治療の実際
広がる定位放射線治療 / ノバリスによる全身のがん治療 / ノバリスの治療事例 / 主な臓器がんの治療成績
第五章 賢いがん治療のために
セカンド・オピニオンの重要性 / “がん専門医”の必要性 / どの定位放射線治療を選ぶか / 放射線治療と他の治療法との併用療法 / 名古屋共立病院でのがん治療の取り組み
第六章 定位放射線治療の来院から治療まで
  1. ガンマナイフ治療
    来院と診断 / インフォームド・コンセント / 二泊三日のガンマナイフ手術
  2. ノバリス治療
    来院とインフォームド・コンセント / 苦痛のないノバリス治療
あとがき
主要参考文献
定位放射線治療専用機のある施設一覧

それでは、ガンマーナイフとは何か。

γ線で、脳腫瘍だけ焼き切る機械である。

原理は至って簡単。コバルト60を201個ぐるりと並べて、そこから出るγ線のうち余計なものをコリメターヘルメットで遮断すれば、残ったガンマ線が患部を直撃する。虫眼鏡で火をつけるのにそっくりだ。焦点から離れていれば、光の通り道に指を差し入れてもやけどしたりしない。

発明されたのは1967年。なんとX線CTより前である。しかし普及しはじめたのはかなり遅く、日本では1990年。著者はその頃からガンマナイフを駆使して、これまで6000件の実績を積んできた、日本におけるガンマナイフの第一人者。

その6000件の実例から選りすぐられた実例が本書のキモ。なにしろCTやMRIといった断層写真で「ビフォーアフター」をやるのだ。小学生にだってそのすごさがわからずにはいられない。登場する断層写真は、本書のページ数の倍ぐらいあるのではないか。

しかし本書が優れているのはそれだけではない。実際にいくらかかるのか(保険を使えば15万円で済みます)、どこへ行けば治療が受けられるのか(現在全国51箇所)、実際の治療はどのように進められるのか(第六章)....患者が抱く疑問が、本書でほぼ全て答えられているのだ。

もちろん、ガンマナイフそのものは魔法の光線銃ではない。なんといっても頭部しか使えないし、頭部を固定するための「拘束具」を固定するのはピンであり、これにちょっとした外科手術を要する。その代わり精度は0.1mm。患部だけを狙い撃ちに出来る。

そして、頭部以外の患部も、ノバリスやサイバーナイフといった、リニアックのX線を照射する、新世代の放射線外科装置が使えるようになっている。

それ以前の放射線治療というのは、「焼く」というより「あぶる」という感じで、患部にだけ強い放射線を当てるというのが難しかったのだが、本書で紹介されている放射線外科器具のおかげで、「患部だけ焼く」が可能になった。このことは、もっと知られてしかるべきだし、そしてそのために本書が書かれたと言っていい。ちなみに「切る」方に関しては、「脳外科の話」がおすすめ。

実用書としても完璧だし、そして教養書としてもAha!の連続。しかも新書。これほど非の打ち所がない一冊というのは滅多にない。本書自体もガンマナイフに劣らない、切れ味するどい一冊だ。

Dan the Potential Patient