著者より献本御礼。

読了して感じたのは、二つのこと。

一つは、著者の手による本としては、最も味わい深かったということ。

そしてそれであるが故に、著者の本としては今ひとつ売れないのではないだろうかということ。

本書「勝間和代の日本を変えよう」を読んでも、あなたの年収が10倍アップするわけではない。もしあなたがそれを欲しているのであれば、読むべき本は「効率が10倍アップする 新・知的生産術」や「利益の方程式」である。

本書は、すでに10倍になった力を、どこにどう費やすべきかを語った本なのである。

目次 - Amazonより
第1章 若い人が暗い国
悲観と楽観
I 職場の憂鬱
「勉強法ブーム」が示すもの
かなり「やばい」日本のビジネス力
効率のよさと競争力のバランス
上司世代の問題
II 3つの変化
1 情報の革命
2 「クリエイティブ」の必要性
3 フリーランス志向の高まり
III 若者たちを明るくしよう
第2章 西原理恵子さんと、最強ワーキングマザー対談
女の人は働いたほうがいい
スカートは、はかない
日本は子どもに冷たい国
「手伝う」って言うな
ひどい会社から逃げよう
私立ならどこでもいい病
おばあちゃんは絶対必要
社員の未婚、社長さんも悩んでます
手に職、大事ですよね
日本は貧困にも冷たい
世界の貧困、何とかなるかも
勉強法、ドーパミンが出るように
もっともっと、子どもにお金を
西原理恵子「勝間さんとわたくし」
第3章 女性が産める、働ける国へ
無関心なマジョリティ
空気の差別
女性を「こき使う」戦略
少子化対策をいかに仕組み化するか
旧モデルと新モデルのはざまで
家事の負担に関するヒント
家庭をもとうよ
私たちのミッション
第4章 雨宮処凛さんと、脱・ワーキングプア対談
違う世界の話
ノルマで命が奪われる
絶対だれかがキレ始める
中高年の割を食っている
10年後の爆発
現実に向き合えるか
勝てない若者
非正規の均等待遇
国力が単純に下がっている
貧困という絶望
まずは知らしめること
第5章 NYで考えたポスト資本主義
インセンティブ体系の不全
NYの最新風景
グローバリゼーションの行き詰まり
資本家の細分化
社会起業家の挑戦
途上国支援の試行錯誤
私自身の試み
勝間和代の日本を変えよう 15の提言

「10倍になった力」と私は書いた。そう。実はすでに「10倍力」を持つ人は多い。そしてそのほとんどは女性である。少なくとも教育に関しては、男尊女卑は終わっている。「女の子だから大学に行くな」などという親はもう絶滅して久しいのではないか。実際進学率でみれば、すでに男女比率は逆転すらしている。

にも関わらず、職場がそうなっていない。せっかく手間ひまかけて、「世界で戦える」ように育てられてきているのに、いざ就職してみると閑職にしかまわされない。それが日本の足を引っ張っているのだ、というのが著者の首尾一貫した主張である。

が、今までの本は「閑職にまわされないようにするためにはどうしたらよいか」というものであったのに対し、本書は「彼女たちを閑職にまわすとこれほど損をするのですよ」という一冊になっている。そう。本書を読むべきなのは、「これから10倍力にふさわしい仕事を得るべき」人々ではなく、彼らにその仕事をふるべき人々なのだ。

一言で言うと、おじさんたち、である。

P. 131
そんな貴重な資源を活用しないのはもったいないじゃないですか。私はべつにフェミニストではないし、ジェンダー論者でもないのです。単純に「もったいないじゃないか」論者です。

フェミニストでない証拠に、著者は同性にも大変厳しい。

P. 124
すなわち、日本では、他の先進国やアジア諸国と比べても、明確に女性が差別されているのです。文字通り、二流市民扱いです。
日本の女性にとって、この現実を受け止めるのは勇気がいると思います。でも、認めてこそはじめて、二流市民という枠のなかで何ができるか、同時に、その二流市民の枠をこわすために何をすべきかを、考えられるようになるのです。

これを見て思い出したのが、右の"Soul Man"という映画。白人の主人公が、奨学金を得るために黒人に化けて Harvard Law School に入学したら....という映画なのだが、そこで James Earl Jones 扮する黒人の教授が、主人公に言った台詞。記憶に頼っているので不正確で失礼。

You are black. And a black must work twice as hard to get even.

「10倍」だから、この教授より厳しいのかも知れない。

もっとも、かの国の黒人とわが国の女性の立場は、類似点もあれば相違点もある。その最たるものは、「すでに我が国の女性は男を支配することで世界を間接支配しているではないか」というものだ。

本書の目玉の一つは、「404 Blog Not Found:そんな苦労が出来ないバカヤロウな男ですごめんなさい」でも紹介した西原理恵子との対談なのだが、その対談の西原による「まとめ」がこれを象徴している。

西原:勝間、世間ではな、できんフリして男を踏んで、上手に階段登る人もおるんやで
勝間:正面から行って何が悪い

本当のところは、正面から行かざるを得なくなったのだろう。階段になれるだけの甲斐性を持った男が減ってきているのだ。絶対数では確実に。そしておそらく平均値でも。

その意味において、彼女たちは男に厳しいようでいて優しいのだ。「もうあんたたちを踏み台にしないで、自分で階段を作って登る」と言っているのだから。

しかし、これほど男ががっくりする優しさも、またない。

もう少し正確に言えば、そういう優しさを受け入れられるように、この国の男の子たちは育てられていないのだ。

おそらく、自ら階段を作って上るタイプの女性にとって理想のダンナは、向井万起男だろう。しかしこちらはこの国に限らず、今のところは世界的な希少種である。西原も著者も、この点に関しては向井千秋ほど運がよくなかった。

「若い人が暗い国」と著者は言う。しかし私が見るに、暗いのは「若い男」ばかりだ。「若い女」はそれほど暗くない。雨宮処凛というのは、その意味で適切な論者だったのだろうか。確かに面白い対談だったのだが、彼女はすでに「居場所を見つけた人」。しかし「居場所がない人」でかつネームヴァリューがある程度ある人となるとすぐに思いつかないのが歯がゆいが。

本書は、今までの勝間本とは、「読後の爽快感」に欠けるという意味で決定的に異なる。率直に言えば、こういう本の方が私好みである。というのは、すでに「10倍」を達成した者の贅沢な言い草なのだろうか....

Dan the MAN