ジバラン。

滑稽で やがて悲しき アメリ哉。

ブッシュ(息子)政権下の合州国に関して書かれた本の中では、間違いなくベストな一冊。

それが、たまらなく悲しい。

本書「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」は、「ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記」の町山智浩が、アメリカの中(バークレーは「人民共和国」であってアメリカではないという意見はスルー)から見た、アメリカ。本書は主にニュースで構成されているので、あえて「現場で」とは書かない。現場の雰囲気を知りつつ、しかし現場からある程度(少なくとも銃弾が飛んでこない程度)の距離を離れていなければ、とても本書はまとまらなかっただろう。

目次 - 町山智浩の新刊『アメリカ人の半分は〜』10月10日発売 - ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記より
序章 アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない
第一章 暴走する宗教
ブッシュが推進する絶対禁欲性教育のムチャクチャな正体
子どもにブッシュを拝ませる福音派洗脳キャンプ
キリスト教ディズニーランドの廃墟で泣く史上最大の宗教サギ師の息子
ドライブスルー教会にプロレス伝道師
大統領を決める男はテレタビーズが大嫌い
神様、兵隊さんを殺してくれてありがとう!
クリスマスを異教徒から守れ! 宗教右派が仕掛けたクリスマス文化戦争
ほか
第二章 デタラメな戦争
「エラの谷」戦場の狂気がアメリカに帰還する
アメリカは拷問まで海外にアウトソーシング
ランボーの戦いは全部スカだった
政府がコントロールできない戦争株式会社
ソ連を倒してタリバンを育てた男
ほか
第三章 バブル経済と格差社会
アメリカを食いつぶすウォルマート
ポラロイド倒産で社員が得たものは?
マリファナの売人はセレブな未亡人
年収360万円の若造に2億円の住宅ローン
メイド・イン・チャイナの星条旗を禁止せよ
アメリカのトウモロコシ畑は日本より広い
ミッキー・マウスを十字架にかける牧師
ほか
第四章 腐った政治
ブッシュとブッシュマンをつなぐ男
実用化された電気自動車はなぜ消えた?
全米の歴史学者がブッシュを史上最低の大統領に認定
『ブッシュ暗殺』は「奴ら」の思うツボ
イラク空爆の導師も高級デートクラブの顧客
隠れゲイの反ゲイ政治家とヤったゲイ募集!
選挙に勝つなら何でもする「ブッシュの頭脳」
ブッシュの伝記映画の重大な事実誤認とは?
ほか
第五章 ウソだらけのメディア
イラク戦争を操ったメディアの帝王ルパート・マードック
ブッシュと記者団に恥をかかせた勇気あるコメディアン
魔女狩り軍団と戦った三人の歌姫ディクシー・チックス
「オバマ候補はイスラムのスパイだ!」
「ザ・シンプソンズ」が親方FOXに反乱
老舗のお笑い番組がヒラリーを救った
ほか
第六章 アメリカを救うのは誰か
「奴隷制度の賠償してくれる人に投票するよ」
「黒人が大統領候補になれるのは50年先だ!」
不死鳥マケインは拷問より親父が怖い
はぐれ牛マケイン、右も左も蹴っ飛ばせ
アメリカの時代は終わるのか
ほか
終章 アメリカの時代は終わるのか
オビより
「殿(ビートたけし)に、
『今、一番面白い評論家は誰だ?』
と聞かれた。俺は自信たっぷりに、
「町山智浩です!」と答えた。
もし疑うなら、この本を読んで欲しい!!
水道橋博士(浅草キッド)大絶賛!

おい、ちゃんと端から端まで読んでねえだろ、水道橋博士。

面白いのは、町山智浩じゃない。

アメリカ、なんだよ。

町山智浩がどれほど面白い人かは、blog(リンクは上)を読めばわかる。それだけ面白い人が、なぜこれほど自重しなければならないか。

そこまで、かの国は面白くぶざまにぶっこわれているということなんだよ。

本書には、「評論」はほとんど出てこない。強いて言えば、各ニュースの後ろに一行つっこみがあるぐらいだ。しかし、それを省いても本書はなお面白い。そこで取り上げられた事件が面白いからだ。

冒頭から一つだけサンプルしよう。

P. 9
「9・11テロの犯人の宗教は?」
「ヒンズー!」
「アルカイダって何?」
「テロリスト!イスラエルの」
「イラクの次にアメリカが攻撃すべき国は」
「イラン!」
「この世界地図でイランを指差してください」
その紳士が指差したのはオーストラリアだった。

著者が指摘するように、この該当インタビューがやらせでないところに、かの国の悲劇がある。本書には、こうした可笑しくて悲しい事件がこれでもかと並んでいる。

現在著者が住んでいるのは、かつて私も住んでいたところだ。そして当時からこの手のニュースは数多くあった。本書にも登場する The Simpsons が始まったのは、私がいた頃の話だ。

しかし、その当時と比べてもなお、かの国の「アホでマヌケ化」は進行してしまったようだ。それは「ゆとり」などというレベルではない。本書を読んでもなお、カバーの「アメリカが外国に戦争をしかけるのは地理の勉強をするためだ」というのが冗句に聞こえるのだしたら、もう一度、本書がノンフィクションであることを指摘しておこう。本書は「僕らのミライへ逆回転」ではなく、著者がアメリカをスウェーデンしているわけではない。現実はKindではなく、Rewindもできないのだ。

それでもなお、著者がかの国にいるのはなぜか。「アホでマヌケな」ものばかりではないからだ。大政翼賛チャンネルFOXがあるかと思えば、そのFOXの看板番組で白昼堂々とFOX批判をやってのけれるMatt Groeningもいるのがかの国なのだ。

P. 254
この国に住むことは「世界」に住むことだ。だから、もうしばらくここにいようと思う。

かの国に一度住めば、このことは実感できる。

もっとも、かの国を「世界」と錯誤することこそ、かの国の国民の最大の宿痾でもあるのだけど。

Dan the Ex-Resident Thereof