また内田先生が煙を巻いている。

人を見る目 (内田樹の研究室)
その中で「『超能力』や『霊能力』のようなものは現に存在する」と書いたら、科学部の編集委員からたちまちクレームがついた。 「と思う」を付け加えろという。

「超能力『者』」や「霊能力『者』」ならよかったのにね。存在が確認されていない「力」「力者」なら確かにたくさんいらっしゃるし。

「見えないもの」が存在すると仮定しないと、「話のつじつまが合わない」ということを証明したのである。
このような態度を「科学的」と呼ぶのだろうと私は思う。
そこに「何か、私たちの手持ちの度量衡では考量できないもの」が存在すると想定しないと、「話のつじつまが合わない」場合には、「そういうものがある」と推論する。
「存在する」と想定した方がつじつまがあうものについては、それを仮説的に想定して、いずれ「話のつじつまが次に合わなくなるまで」使い続ける、というのが自然科学のルールである。

私は自然科学者ではないが、これはひどい。どれくらいひどいかというと、第九条だけ書いて「これが日本国憲法です」というぐらいひどい。

どうひどいか。

科学において「見えないもの」を仮定するときには、「もし見えたとしたら、どんな風に見えるか」を厳密に規定するのが自然科学である。たとえばニュートリノ。

ニュートリノ天体物理学入門 P. 72
パウリが、ベータ崩壊のときに、ニュートリノが放出されなければ困ると言い出したのはどういう理由であったかというと、そうでなければエネルギー保存則と運動量保存則と角運動量保存則が満たされなくなるからです。

それでは、なぜこれら三つの保存則が満たされなければ困るのか?続くP. 73は、私が同書の中で一番好きな部分。これほど明快で美しい説明を見たことがない。長いが三つとも引用する。

ところが、考えてみると、たとえば角運動量保存則は、「私たちの自然現象が起こる3次元の空間のどの方向も特別にひいきされていません(空間の等方性)。だから、空間のどっちの方向を座標軸にとっても自然を記述する法則は変わらないはずです」という、もっと一般的な原理から導きだされる保存則です。
また、たとえば運動量保存則というのは何かというと、「この空間のどこの場所へ言ってもみんな一様であって、だから、どこの場所へ行って自然法則を書きあらわしても同じ法則が得られるはずです」ということに由来する保存則です。
では、エネルギー保存則は何かというと、「時間の過去であっても未来であっても、時間のどの点で物理現象を記述しても同じ法則が得られるはずです」という原理から導かれる保存則です。

そう。スピン1/2だけ持つ粒子を仮定した方が、これらの保存則を捨ててしまうよりよっぽど物理(学者)にとっては「保守的」だったのだ。

パウリは、ただ「未知の粒子が存在する」と言ったわけではない。その粒子のスピンが1/2であること、質量はほとんどないこともきちんと指摘しているのだ。湯川と中間子、ディラックと反粒子....例外は、ないはず(私は科学者ではないので断定は避けたが、科学者だとしたら「はず」もはつけない「はず」)。

未確認物体を仮定する場合、むしろその存在を仮定したことで、その物体の「未知度」は下がるのである。仮定しておけば、次に目の前に現れたときに「あ、あいつだ!」とすぐにわかるのだから。

だから、未知の物体をたとえば米空軍のようにUFO = Unidentified Flying Object と呼ぶというのであればわかる。少なくとも「飛んでいる」という属性はわかる。地上を這ったり海中に潜んでいたりするわけではなない。

しかし「超能力」や「霊能力」は、それを持ち出してもちっともこの世(Universe)も頭の中(Entoverse)も単純にならない。オッカムのカミソリがオッカムのナタになってしまう。

保存則があるせいか、自然科学者というのはおしなべて「けち」なものである。ご利益、すなわち「より単純に森羅万象を説明できないなら、そんな理論はエントロピーを大きくするだけだ」とポイされてしまう。

原文を読んでいないので断定はできないが、少なくとも内田先生のentryを読んだ限りでは、「超能力」や「霊能力」を仮定することで、元の文章はおろか「超能力」や「霊能力」が一体何を指すのかまるでわからない。

今後、こういう「大盤振る舞い」された仮定のことを、タツロン(tatsuron)と呼ぶことにしよう。

....と書いて、一つタツロンの明らかな効用に思い立った。タツロンが存在することにしておけば、文系の学者の雇用力がずっと大きくなる。これは見過ごせない。

というわけで、内田先生のために、私にとってはこれまたタツロンの一つである「神」に祈ることにしよう。タツロンがフロギストンやエーテルと同じ運命をたどらないことを。

Dan the Layman