このニュースを見て、むしゃくしゃして買った。
オバマ政権移行チーム、「アレスI」ロケットの開発中止を検討 - Technobahn【Technobahn 2008/11/30 15:05】オバマ米次期大統領の政権移行チームがNASAが開発を進めているスペースシャトルに代わる有人ロケット開発のためのコンステレーション計画(Constellation Program)の計画縮小を策定していることが米宇宙開発専門誌「スペース・ドット・コム」の報道により28日までに明らかとなった。
後悔はしていない。ちょっとむかついたけど。
本書「宇宙旅行はエレベーターで」は、軌道エレベータ、または宇宙エレベーターに関する一般向けノンフィクション。「楽園の泉」以来、SFの世界では軌道エレベーターはワープ航法よりありふれた小道具となっているが、それを「SF者」ではない天体物理学者と不動産ファンドのマネージャー(!)が「実際に作れる」ものとして書いたのが本書である。
著者たちによるプロモーションビデオがYouTubeに上がっていたので、目次と一緒にまずはご覧頂きたい。
目次 - Amazonより- 第1章 ロケットに代わる宇宙輸送手段
- 第2章 宇宙への架け橋
- 第3章 SFと宇宙エレベーター
- 第4章 先端技術開発の難しさ
- 第5章 宇宙エレベーターの建造方法
- 第6章 安全上の問題点
- 第7章 宇宙エレベーターへの移項
- 第8章 アース・ポート
- 第9章 NASAの宇宙開発計画
- 第10章 宇宙エレベーター建造競争
- 第11章 軍事防御
- 第12章 なぜ宇宙エレベーターを作るのか
- 第13章 宇宙刊行旅行の始まり
- 第14章 はるかなる宇宙への旅
- 第15章 月の宇宙エレベーター
- 第16章 火星の宇宙エレベーター
- 第17章 次の目的地
- 第18章 宇宙株式会社
- 第19章 21世紀の未来像
- 訳者あとがき
著者たちが構想する宇宙エレベーターは、SFの諸作品に出てくるものよりだいぶおとなしい。「楽園の泉」の「カーリダーサの塔」は、私の記憶が確かならば10億トンの炭素の結晶(「ダイヤモンドと呼ぶなかれ」と作品中で連呼されているのでこう呼ぶ)だが、本書バージョンは、ケーブル部分がたった1400トン。打ち上げ時のスペースシャトルより軽いのだ。
その代わり、性能もまたおとなしい。「水惑星年代記」では、ゴンドラはリニアモーター駆動で(他の諸作品でもほとんどそう)最高速度は時速10000kmで、わずか6時間で静止軌道まで達するのに対して、著者たちの「クルーザー」は、たった時速200km。静止軌道までは7日半の道程である。これは「ケーブル」(実はふわふわのリボン)を直に「レール」として使うためだが、リニアモーターの軌道分が死過重とならない分、建設はたしかに有利になる。
このゴンドラの給電も、有線ではなく無線で行う。レーザーをクルーザーにあてて、クルーザーは備え付けの太陽電池でそれを電気に戻してモーターを駆動する。本書の挿絵とYouTubeのビデオでは、「下」からしか給電していなかったが、太陽発電衛星が使えるようになった際には「上」からも給電するようになるだろう。
この1400トンのケーブルと20トンの「クルーザー」で、年間1500トンのペイロードを静止軌道、そしてその向こうまで運ぶというのが、著者たちの構想である。
しかし、最も驚きなのが、その建設コストである。たったの100億ドル、1兆円である。本州と四国を結ぶ橋一本分で出来てしまうのだ。これだけ安いと、個人でまかなえる人すらいることになる。本書でもゲイツやバフェットやアル・ワリード王子の名前が「潜在顧客」リストとして登場する。
ましてや企業であればなおのこと簡単だ。それくらいの現金を持っている企業は少なくないし、外から調達するのだって容易だ。「宇宙エレベーター債」が発行されたら、私だって買う。絶対買う。本書にも三井物産の名が、潜在施工主リストとして登場する。企業規模も充分だが、すでにカーボンナノチューブを作っているのが本書の著者たちの目にとまったようだ。
そう、カーボンナノチューブ(CNT)。理論的には軌道エレベーターのケーブルとして充分な強度を持つのだが、実際にそれだけの強度を持つCNTで、10万kmのケーブルを作れるかどうかが、宇宙エレベーター建設の可否を握っている。それだけ、たったそれだけ解決すれば、あとは既存の技術で施行できてしまうのだ。
そして、一端宇宙エレベーターが一基出来てしまえば、今度はそれを足がかりにして二番目以降の宇宙エレベーターはずっと安価に建造できる。残念なことに著者たちは一兆円の明細書を本書につけてくれなかったのだが、それでもその大部分が、最初のケーブルを敷設するために静止軌道まで輸送しなければならない80トンの資材の運送費であることはわかる。
今、宇宙は我々から遠ざかりつつある。アポロ計画の頃よりずっと。このことは今に始まったことではなく、私が生まれた1969年以来ずっとそうだった。「マクロエンジニアリング受難世代」なのだ。そしてまた一歩宇宙は遠ざかろうとしている。宇宙エレベーターは、起死回生の技術となるのかも知れない。
最初に「むかついたけど」と書いたのは、著者たちが重要な人物や作品をスルーしているため。ClarkeがいるのにSheffieldがいないってのはどうよ?本書で一番重要なCNTの紹介にあたって飯島澄男 のイの字も出てこないってどうよ。「銃・病原菌・鉄」から「中国の大航海時代」を引用しているのに、鄭和という名前が出てこないってのはどうよ。
その点、邦訳版では著者があとがきでずいぶんと補完してくれたのでほっとしている。というわけで入手するなら邦訳版の方がおすすめ。
とにもかくにも、宇宙がかえって遠くなってしまった現在、Science FictionではなくScience Factとしての宇宙エレベーターは、もっと注目されてしかるべきだ。現時点において入手可能な唯一の入門書として、本書の価値は高い。是非一読あれ。
Dan the Passenger-to-be
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