以下はよく目にする意見だし、私も反対ではないのだけど....

「プロジェクトX」という錯覚 - 池田信夫 blog
歴代の視聴率ベストテンには、「瀬戸大橋」や「青函トンネル」が入っている。男たちの「不屈のドラマ」の結果は、本州四国連絡橋公団の4兆円を超える債務と、旅客の通らない長大なトンネルだ。

その一方で、金銭という「見える」部分だけ見て両プロジェクトを「失敗」と言い切ってしまうのには躊躇がある。

まず、どちらもはじめから「人命第一」のおかげで「採算度外視」プロジェクトではなかったか、という点。青函トンネルには洞爺丸事故が、瀬戸大橋には紫雲丸事故がそれぞれ背景としてあった。人命のためなら超法規的措置すら辞さないこの国にあっては、「いくら得した」だけではなく「何人死なずに済んだか」という指標も必要になるのではないか。

この「何人死なずに済んだか」というのは、平時だけではなく戦時の「経済学」にも登場する。野中郁次郎の「アメリカ海兵隊」には、硫黄島の戦いの分析が出てくる。曰く、戦闘単位では米軍の負けだが、それにより日本空襲の爆撃機や戦闘機の避難場所として、硫黄島は多いに貢献し、硫黄島を攻略しなかった場合よりした場合の方がGIの死傷は少なくて済んだのだと。

もう一つの「見えない利得」は、言うまでもなく技術の習得と維持。「Amazon.co.jp: 巨大建設の世界―NHKスペシャル「テクノパワー」 (2): NHK「テクノパワー」プロジェクト」には、「アメリカはもうゴールデンゲート・ブリッジを架けられないのではないか」というどきっとするような台詞が出てくる。確かにかの国が最後に架けた長大吊り橋はVerrazano-Narrows Bridgeで、出来たのは60年代。今や吊り橋に必要なケーブルを作る工場も閉鎖されてしまっている。

一度「世界最高のもの」を作ったというのはトラックレコードとしてはかなり貴重なようで、青函トンネルのOB (英語ではVeteran)が、工法がまるで違う英仏海峡トンネルでも「ネ申」としてあがめられていた様子は、「青函トンネルから英仏海峡トンネルへ」に詳しく出てくる。

そんなわけで、橋もトンネルも、日本のゼネコンが世界で大活躍しているのはご存知のとおり。ライバルとして欧州は出てくるけど、合州国はほとんど出る幕なしになってしまっている。

もちろん、この二つを加味してさえ、本州四国連絡橋と青函トンネルを「テクノパワーの勝利」と見なすのは難しい。特に前者はどう考えても多過ぎる。それでも、費用対効果だけで割り切るには、両プロジェクトの「金にならない価値」はあまりに大き過ぎるというのは、ギークの身内びいきに過ぎないのだろうか。

Dan the Geek