中公新書編集部より献本御礼。
その曖昧でおとなしい書名と、そして典型的な中公新書の地味な装丁からは想像できないほど、鮮やかで艶やかな一冊である。なにしろ、修辞抜きで心の動きを観ているのだから。
本書「心の脳科学」は、むしろ「心理物理学入門」とでも呼ぶべき一冊。
というニュースが本日出たが、本書に詰まっているのは、こういう知見である。
目次 - 手入力- 第1章 外の世界、内の世界
- 第1節 未来の脳社会
- 第2節 脳の中の世界地図
- 第3節 脳のアナリスト
- 第4節 見ることと、見えること)
- 第2章 「わたし」と「あなた」
- 第5節 時間を越えて存在する「わたし」
- 第6節 知性を制御する仕組み
- 第7節 社会的な脳
- 第3章 物質としての脳と心
- 第8節 遺伝子によって左右される脳
- 第9節 脳はここまで変わる
- 第10節 二一世紀の読心術
- 終章 物質現象
- あとがき
- 索引
古典的な心理学と、本書における「心の脳科学」との最大の違いは、何を観察しているか。古典的な心理学においては、体の外に現れた反応しか扱えなかった。function = 機能は相変わらずブラックボックスで、output = 出力から機能を類推するしかなかったのだ。
しかし、「心の脳科学」においては、脳を直接観察するのだ。それも非侵襲的に。
それを可能にしたのが、fMRI。一般的なMRIでは、「脳に何があるのか」しかわからないのに対し、fMRIでは、「脳で今何が起きているのか」、すなわち脳の動きもある程度わかる。fMRIのfは機能のf。そしてそれを最初に行ったのは、小川誠二博士。これまたいつノーベル賞が来てもおかしくない業績である。
本書では、このfMRIを中心に、さまざまな手法で脳の生の動きを観察し、そこから得られた知見をまとめてある。知見も去ることながら、実際の脳観測がどのように行われるかがきちんと紹介されていてる点が素晴らしい。
P. 22「はーい、じゃあブラもはずしてねえ」
これを言うときにニヤっとしてしまうとセクハラになります。研究とはリスクを伴うものなのです。
なぜブラをはずさなければわからない人は、是非本書でその理由を確認すること。
もちろん、fMRIは魔法の読心装置ではない。最新のものを使っても、fMRIの1ボクセル(立体なのでpixelでなくてこう呼ぶ)の中には、100万もの神経細胞が入ってしまう。それでも上のATRの研究のようなことが出来てしまうのだ。
さらに驚きなのが、非侵襲的なpeekだけではなく、非侵襲的なpoke、すなわち干渉まである程度可能だということ。
行動経済学には「最後通牒問題」というのがある。
P. 175あなたはもう一人のパートナーと組んで実験に参加します。まずあなたのパートナーが1000円もらいます。パートナーはこのうちのいくらかをあなたに渡します。でもいくら渡すかは、パートナーが決めます。もしあなたの受け取る金額があまりに少なすぎると思ったら、あなたは受け取りを拒否することができます。この場合、あなたもパートナーも受け取る金額はゼロになると決められます。
ホモ・エコノミクス的な最適解は、「たとえ一円でもいいから必ず受け取る」というものだが、実際の実験においては、自分の取り分が1/4を切ると、80%は受け取りを拒否する。ここまでは普通の行動経済学なのだが、本書にはさらにその先がある。
P. 176お金を受け取るほうの被験者の右前頭葉外部側に磁気刺激を行ってこの領域の活動を抑制すると、被験者はお人よしになって、少ない金額でも受け取るようになります(Knoch, et al., 2006)。20%の金額しか配分されない、普通なら被験者は90%の確率でこれを拒否するのですが、右前頭葉の働きをブロックすると、拒否する確率は55%に下がってしまいます。ただし被験者は不公平な取り引きだと感じています。それでも実際に行動する段階では受け入れてしまうのです。また左側の前頭葉の活動を抑制してもこのような結果は生じませんでした。
本書には、こんな文字通り刺激的な実験結果がいくつも登場する。これだけの知見が新書一冊で手に入るとは信じられないぐらいだ。まずは読んで驚いて欲しい。あれこれ考えるのはその後でも構わない。
Dan the Phenomenon

で、答えは「ワイヤー入ってるから」?