行った、観た、まいった。

現時点における、SF映画の最高峰。SFアニメの最高峰。アニメの最高峰。

Animationというのが、アニマ = 魂を吹き込むことだというのが、子供でも納得できる。

本作「WALL-E」は、Pixar Animation Studiosの最新作にして最高傑作。度し難いことに、Pixarは今まで駄作を一本も作っていない。にも関わらず、「最新作が最高傑作」という期待感を常に維持してきた。そして今回もまた見事に期待に応えた。

ゴミの惑星となった地球に、ただ「一人」残ってゴミを片付けるロボット、WALL-E。ゴキブリ一匹を唯一の友人として、今日もせっせと仕事をしていたら、轟音とともに巨大な宇宙船がやってきた。そこから降りて来たのは、「一人」の美しいロボットだった....

この冒頭からしてやられてしまった。孤独、寂寥、そして無惨。テラサイレント・ランニング。そんなひとりぼっちのWALL-Eの造形は、モロ「ショート・サーキット」のジョニー。そんな無骨でオンボロでかよわいWALL-Eと、なめらかできれいで強いEVEはまさに美女と野獣....

しかし、本作は他のPixar作品と同様、あくまでコメディ。最初から最後まで、笑いが絶えることはない。WALL-Eの起動音から「ツァラトゥストラはかく語りき」まで小さなスラップスティックから大きなパロディまで、本作は笑いに満ちている。

それだからこそ、あれだけ強烈な自嘲を込められたのだろう。今年のハリウッドはかつてないほど自省的で、The Dark Knightしかり、The Eagle Eyeしかりだったのだけど、現代アメリカ(そしてその取り巻きとしての、日本を含む資本主義国)の最も醜い側面を描いた作品はなかったのではないだろうか。他の作品は、せいぜいアンクル・サム、すなわち政府の醜悪さを、それも暗喩としてしか表現していないのに対し、本作の BNL = Buy 'N Large (もちろん by and large にかけてある)や豪華宇宙客船AXIOMの乗客たちが、自分たち自身のカリカチュアであることは子供でも見間違えようがない。

恋愛から文明批判までカヴァーした本作のテーマの多彩さと、過去作品へのオマージュの膨大さは、ハイペリオン/エンディミオン四部作に勝るとも劣らない。それをわずか103分に集約し、しかも子供が観てもわかり、それでいて目の超えた大人も飽きさせないその構成力には脱帽するしかない。

本作は見間違えようがないSFだが、しかしハードSFではないし、「ハイペリオン」もそうではなかったように、本作もハードSFである必要もない。本作の「宇宙」はあくまで映画のそれ。真空中でも星はまたたくし、EVEがどうやって空中浮揚しているかもわからないし、にも関わらず宇宙船は豪快に噴射煙を上げるし、何にもましてどうやってWALL-EやEVEをはじめとするロボットたちが魂を持つに至ったかは何の説明もない。

しかし、どうやって彼らが魂を得たかは、どうでもいい。本作は魂が何をするかの物語なのだから。そしてそれこそが、Pixarの電燈であり伝統なのである。そして今回、Pixarは最も「電燈」に近い主人公を描いた。

絵がすごいというのはもはやPixarでは当たり前だが、今回は音もすごい。本作をしめる Peter Gabriel の Down to Earth、日本ではいつ購入可能になるのだろう。残念ながら今のところは Apple Store でも Amazon でも手に入らない。

前座のショートムービ、"Presto"から、エンドロールに至るまで、一フレームの無駄もない。これを観ずしてもはや映画もSFも語れない。とてつもない一本。これを観ずして2009年を迎えるなかれ。

Dan the Animate Blogger