ダイヤモンド社今泉様より献本御礼。

今回の「世界経済危機」の特徴の一つは「わかりにくいこと」だが、そのわかりにくい現況を解説した本の中で、もっとも包括的かつわかりやすい一冊である。

もっとも、これでも私は危機の半分しか解説していないと強く感じるのだが。

本書「世界経済危機 日本の罪と罰」は、今、世界経済で何が起きていて、それに日本がどう関わっているかを、実に手早く、しかしわかりやすくまとめた一冊。

目次 - 「本」の検索と購入より
はじめに
序論 一〇〇年に一度の経済危機
いま何が起きているのか?
誤りが多い一般の理解
どう理解するかで対応に差が生じる
第1章 崩壊した日本の輸出立国モデル
1 なぜ日本の株価が激しく下落するのか?
2 日本の輸出立国モデルは崩壊した
3 「日本の出番」どころか、日本の大危機
4 自慢できない日本の不良債権処理
第2章 アメリカを襲った金融危機の本質
1 アメリカ住宅価格バブルの膨張
2 金融危機の進展
3 金融工学が元凶か?
4 CDSとは何か?
第3章 モンスターを生んだアメリカの過剰消費
1 過剰消費でアメリカの経常収支赤字が拡大
2 経常収支赤字は持続できるのか
3 アメリカの経常赤字が日本の黒字を増大させた
4 アメリカの経常赤字の縮小は不可欠
第4章 対米黒字の還流がグローバルなバブルを生んだ
1 資本取引による黒字還流のメカニズム
2 円安バブルの進行
3 投機の破綻
第5章 原油・食料品の価格問題は解消したのか?
1 暴騰と暴落──一次産品価格の動向
2 金融政策の方向づけ
3 食料価格問題の解は自給率引上げではない
第6章 世界経済と日本経済はこれからどうなるのか?
1 今後の経済危機はどのように進展するか?
2 株価と為替レートはどうなるか?
3 投資銀行モデルの終焉
4 デカップリングするアメリカ
第7章 これから本格化する経済危機にいかに対処すべきか?
1 資産の運用はどうしたらよいか?
2 円高のメリットを正しく評価しよう
3 必要なのは日本経済の構造大転換
4 危機こそチャンス
[巻末資料]データへの道案内
図表目次
索引

著者がなぜこれほど早く本書を上梓できたかといえば、一つには著者の週刊ダイヤモンドにおける連載が「下書き」となっていたところがある。しかしそれ以上に大きいのは、問題の本質が今にはじまったことではないということがある。

それが、オビに記された一行だ。

主犯・アメリカに、投機資金を供給し続けた共犯・日本。その代償として、これから未曾有の大不況が日本を襲う!

世界はこの鬼子をずっと孕んでいて、その鬼子が今年「誕生」しただけなのだ、というのが著者の一環した主張なのである。

本書を読むと、改めて

“ドメでよかった”日本経済 - Chikirinの日記
まず最初に感じること、それは「国際的な国、企業、人ほど大変」ってこと。これは今回の経済危機の大きな特徴だ。

というのがいかに危険な誤解かがわかる。「それは著者やあなたの偏見でしょ」という反論には、以下のリンクを紹介するにとどめておく。

つぶれているのはドメばかりではないか。

確かに「悲鳴の大きさ」を危機の大きさと取り違えれば、これは事実だ。しかし国際的な国、企業、人がなぜ大きな悲鳴を上げることができるかといえば、それだけ痛みに敏感で、かつ健康だからだ。そうでないところというのは、悲鳴を上げる体力すらない。「ドメほど楽」というのは、末期がんの患者が、風邪で高熱を出した人を見て「大変ですなあ」というようなものである。

新たな「失われた10年」が始まる - 池田信夫 blog
むしろ急性の症状が出たアメリカのほうが問題を認識し、国民にも危機感が共有されているので、立ち直るのも早いだろう。日本でもっとも危機的なのは、危機感が欠如していることである。

に、著者も私も同意するゆえんである。

それでも、私は著者の危機感はまだ足りないと感じる。著者は現在の経済状況に危機を感じつつも、価値観そのものには危機を感じていない。その様子は、たとえば日野市の浄化槽とシリコンバレーの下水の話に表れている(P. 104)。著者はこれを「貧しい日本、豊かなアメリカ」という文脈でとらえているが、私に言わせれば浪費と投資の取り違えだ。環境負荷という点においては、浄化槽の方が下水道よりよっぽど優秀なのだから。

著者はいくらかはアメリカ的浪費に疑問を投げかけてはいるものの、それが今回の危機にとって本質的なものであるとまではとらえていない。もっとも、その点は私には不満ではない。この著者にそれを求めるのはないものねだりである。

おそらく読者が最も読みたいのは、最終章の「いかに対処すべきか?」だろう。正直元気が出ることは何も書いていないが、積極投資に値する唯一の対象が教育というのは、私も同感だ。最近も私はある経済関連雑誌のインタビューで、「10万円あるならFXではなく本を買え」と言ったが、危機感もないのに本をめくっても時間の浪費にしかならないというのも残念ながら事実なのである。

というわけで、今度こそは、著者の主張に危機感をもって耳を傾けていただければと思わずにはいられない。共有すべきは意見ではなく、危機感なのだから。

Dan the Economic Animal