すでに

に「営業妨害」クラス(笑)の要約が上がっているし、売れてもいるしで今回はスルーするべきかなとも思ったけどやはり書評しておくことにする。

本書「この世でいちばん大事な「カネ」の話」は、現代人にとって最も大事(だいじ|おおごと)なカネの話を、もっとも「読むのが難しい」漫画家が、もっともやさしく書いた一冊。

目次 - Amazonより
第1章 どん底で息をし、どん底で眠っていた。「カネ」がないって、つまりはそういうことだった。
第2章 自分で「カネ」を稼ぐということは、自由を手に入れるということだった。
第3章 ギャンブル、為替、そして借金。「カネ」を失うことで見えてくるもの。
第4章 自分探しの迷路は、「カネ」という視点を持てば、ぶっちぎれる。
第5章 外に出て行くこと。「カネ」の向こう側へ行こうとすること。

西原理恵子の漫画は、難しい。

まず、絵が下手である。ド下手である。自他ともに認めている。「西原理恵子の人生一年生」では、「しりあがり寿とどっちが下手か」をネタにしているぐらいである。

なのに、読者の視線をとらえて話さない何かがある。

「読め」という信号は強烈なのに、「何を」というメッセージは簡単には読めない。

いや、あれだけ書き文字があれば、絵はとにかく内容もわかるだろうという人は、西原の術中に堕ちているのである。

著者の漫画を読むというのは、行間ならぬコマ間を読むということだ。何をあえて描いていないか、そして描けなかったのかがわかって、はじめて読んだことになる。正直、あんな難しい漫画が売れているとは日本というのはなんととてつもない国なのかと感嘆したものだ。

本書に、そういう難しさはない。

そういう難しい本では、子供がわからないからだ。

本書が収録されている「よりみちパン!セ」というのは、子供でもきちんと読めるものでないと駄目な器だ。それを逆手に取った「正しい保健体育」は実に見事だったけど、本書は「金」という、誤解されてはセックスよりもやばい、それでいて二次性徴を迎える前からつきあわなければならず、そしてそれは今際の際まで続くという、まさに「いちばん大事な」話である。著者の直球は、正しい。

著者の「器にあわせる」姿勢というのは、実は漫画でもはっきりと読み取れる。これほど「初出がわかりやすい」作家というのも珍しい。第一印象の「マッチョなおっさん」な母さんとは対極にある、腰の低さがそこにある。著者の「下手」は、「へた」以上に「したて」なのだ。そして本書では、「漫画」すらそのために「犠牲に」しているのだ。

内容はmedtoolzさんに要約されまくってしまったので、一カ所だけ一番刺さった部分を引用させてもらう。借金の話だ。

P. 162
 いくらお金を貸したからって、それがその子にとって、当座の気休めにしかならないってことを、みんながわかっていた。借り手も返せないその子の友だちに顔をあわせづらいから、だんだん、こっちからも連絡もとれなくなって、そのうち、みんなの前から姿を消した。
 こんなかなしい思いをするのは、二度とごめんだ。友だちにだけは、もう二度と金を貸すまい。そのときはわたしもそう思った。
 けどね、相手も困ってるんだなって思うと、やっぱり断れないのよ。そうやって結局交流がとだえてしまった友だちが、わたしには、何人もいる。

これは、痛い。

私も実はそうだから。

友人どころか私はそれで父も失った。今はそれ以上書けない。

親しい人に金を貸す時ほど、私はビジネスライクに振る舞っている。まずは「借りないこと」を薦め、きちんと金銭消費貸借契約書を作り、利息も設定し、そして金額は「言われた額」ではなく「必要な額」に。そうしてきちんと返済してくれた人も決して少なくない。

しかし、それでも返さない人は返さない。これは返済能力の問題とは違う。人のよしあしとも違う。

金が稼げないのは辛い。

しかし自分の金が人の薬になるどころか毒になるのを見るのは、もっと辛い。

必要な金額を、必要な時に、必要なだけ稼げるのが一番いいのだろう。一円の過不足もなくそれが出来れば理想なのだが。

金で一番大事なのは、そういうことなのだと改めて実感した一年だった。

Dan the Accidental Millionaire