JSEA 日本宇宙エレベーター協会の年末総会兼忘年会が拙宅で開催された際に、ご足労いただいた著者にサインを頂いた。
初出 2008.12.30 増補版のちくま文庫化を受け2010.05.03更新松浦晋也のL/D: 宣伝:新著「スペースシャトルの落日」が5月20日に発売されます
宇宙旅行の夢を皆に与えてくれたスペースシャトルは、実際には世紀の失敗作だった。宇宙開発の未来を拓くものとして世界に喧伝されたスペースシャトルの真の姿とその背景、その影響と今後の宇宙開発において日本が進むべき道を探る。
宇宙開発に興味がある人に留まらず、巨大プロジェクトに興味がある人なら、絶対読んでおくべき一冊。
著者にのみ可能な鬼手仏心が、ここにある。
本書「スペースシャトルの落日」は、宇宙ジャーナリストとしては日本でも第一人者である著者が、スペースシャトルの功罪を外の人として書いた一冊。
目次 - Amazonより国家プロジェクトとして見たスペースシャトルが失敗作であることは、単純に費用だけ見ても瀬戸大橋や青函トンネルに劣るものではない。このこと自体は、宇宙に興味がない人にもよく知られている。
しかし、本書の鋭さは、ある一点において、スペースシャトルが日本の「採算度外視」プロジェクトのどれよりもひどい失敗だったことを指摘している点にある。
世界中を、だましてしまったことだ。
今や有人宇宙飛行では世界最先端となったロシアですらだまされてブランを作った。それだけならまだしも、有人宇宙飛行に手を出していないESAやNASDA(現JAXA)もだまされていたと著者は喝破する。
彼らの主力ロケットの第一段エンジンに液体水素-液体酸素エンジンを採用したことである。
なぜそれが「だまされたこと」になるのかは本書をご覧いただくとして、言われて見れば確かにそうである。化学ロケットとしては最大の比推力を発揮する理想のエンジンは、実に気難しいエンジンでもある。H-IIのLE-7開発では、日本の宇宙開発ではおそらく唯一の死者まで出している。
「それでも開発に成功したのだからいいのではないか」という意見も支持したいし、実際私自身本書を読了するまで支持していたのだが、それが「スペースシャトルの呪い」であり、そしてケロシン-液体酸素エンジンと比べていかに高くつくかという本書の指摘には納得せざるを得ない。
それでは、なぜ世界中がだまされていたのか。
それが、権威主義と官僚機構の恐ろしさなのだ。
スペースシャトルとは、世界中の宇宙関係者にとって、まさに Too Big to Fail だったのだ。
「NASAがやってるんだから間違いない」。これに抗える人がどれだけいるだろう。
P. 233告白しよう。私もあっさりとだまされていた。
そう、著者も含めて。
英語で"Rocket Scientist"というのは、実際のロケット科学者のみならず、「最も頭のいい人」を指す比喩でもある。「そういう人たちがやっていることなら間違いない」という呪縛がいかに強いかといえば、一機のみならず二機も合計14名ものクルーの命とともに事故で失った今でさえ口にはばかるほどである。
正直、著者にここまで言われても、まだNASAを信じたい自分がいる。スペースシャトルが失敗作であることを認めてもなお、NASAの挙げてきた功績はあまりに大きい。しかし、アポロ後のNASAの成果を見ると、Voyagerのように「シャトルがなくても挙げられた」ものどころかGalileoのように「シャトルを使わなければもっとよかった」ものまであり、「NASAがよかったからスペールシャトルもよいはず」ということには全くならない。
P. 235何度もあちこちで書いているのだが、ここでも繰り返そう。「自分の頭で考えよう」。自分で考え、自分の手と足で目標を目指すなら、宇宙は決して遠くない。
宇宙だけではなく、地上でも成り立つ教訓ではないか。
Dan the Prisoner of the Gravity Well
海洋開発こそ、「瀬戸大橋」や「青函トンネル」が格好の前例なのでしょうから。