東洋経済新報社斎藤様より献本御礼。

業務連絡:お待たせしました>ちかちゃん。

いささか気恥ずかしいが、今まで私自身が取ってきた行動が、つぶさに視覚化され、てきぱきと系統化され、あざやかに文字化されたような一冊。人脈本は決して少なくないが、その中ではもっとも「やっぱりこれでよかった」感が強い。

本書「抜擢される人の人脈力」は、コネ則カネの代表格ともいえるヘッドハンターが書き下ろした人脈本。

目次 - 書籍 : 抜擢される人の人脈力 「経営×人材」 株式会社プロノバ
はじめに : 活躍できる人、できない人の差は「抜擢」
第1部 なぜ今、「人脈」なのか?
人脈の重要性再考と将来仮説
第1章 ハーバードで学んだ人脈の哲学と人脈スパイラル・モデル
第2章 人脈のパラダイム・シフトに伴う戦略的人脈構築の必要性
第2部 人脈スパイラルと人脈レイヤー
抜擢される人の戦略的人脈構築モデル
STEP1 自分にタグをつける
STEP2 コンテンツをつくる
STEP3 仲間を広げる
STEP4 自分情報を流通させる
STEP5 チャンスを積極的に取りに行く
第3部 人脈スパイラルの先には何があるのか?
戦略的人脈構築の本当の目的
おわりに

私自身、自著でこう述べた。

弾言」 P. 155
弾言します。コネこそカネなのです。

訂正、いや追補させていただく。今やこれすら弾言として弱い。ここまで弾言してしまおう。

コネでカネを作ることは出来るが、カネでコネを作ることは出来ない。

コネの方が、実は重要なのだ。

そんなコネの作り方を述べたのが本書であるが、実に意図的かつ自然である。

ヘッドハンター 岡島悦子のインサイト
5つの行動ステップを通じて抜擢され、成長することによって、ひとつ上の「人脈レイヤー」へと「らせん状」に昇華していくことから「人脈スパイラル・モデル」と名付けたものです。

この人脈スパイラルを起こすのが、目次にもある5つのステップであるが、ステップだけあって順番が実に重要である。各ステップの項目に関しては、おそらく誰でも「あたりまえだよ」と感じると思われるであろうが、私が見るにこのステップの順序を勘違いしているがために「コネが育たない」人が実に多い。

その中でも、最重要なのは「自分にタグを付ける」が最初に来ていることである。

そう。「コンテンツをつくる」、すなわち「中身をともなう」より先なのだ。

おそらく日本人の人脈に関する勘違いで最も多いのは、「中身がともなえば人脈は向こうからやってくる」という思い込みであろう。著者は第二章の冒頭でそれに「白馬の王子様症候群」と名付け、真っ先に切っている。

ヘッドハンター 岡島悦子のインサイト
能力開発に打ち込む真面目な人ほど、能力開発の努力さえしていれば、誰かがきっと引き上げてくれるに違いないと思いこむ「白馬の王子様待ち症候群」や「きっかけは運任せ症候群」に陥っている人が多いようです。

人脈は、まずは自分から動かないと育たない。人脈力が強い人々はそれを皆知っている。中身に関しては文句の付けどころがない、職人岡野雅行ですら太鼓持ちを欠かさなかったことを自著で明らかにしている。

しかし、本書は返す刀で「「自薦」ではなく「他薦」が必要」とも述べている。なんだか矛盾しているが、いかに「積極的」に「他薦」を獲得するか。これが人脈獲得の難しさであり醍醐味である。

On Off and Beyond: 書評:抜擢される人の人脈力 早回しで成長する人のセオリー
「上げる」というより「上がる」わけですが、上記総合すると「実力と宣伝と人脈のわらしべ長者モデル」ですな。じゃぁ?から?を具体的にどうするの、ということに関して説明してくれる本なわけです。

それを具体的にどうするかはちかちゃんもいう通り本書をご覧いただくとして、例によってこの分野でも「天才は自分のやっていることをいちいち技化したりしない」ということが成り立つ。同じ技でも天才は人に教えられることなく、無意識でこれらの技を実行してしまう。だからこそ本書のようなアナリシスが役に立つ。この点に関しては私も「天才型」で、著者のような人に指摘されてはじめて「あ、そういえばそうだった」と気がつく始末である。

実にいい意味でマッキンゼー的な本書であるが、マッキンゼー的な弱点が実は一つある。

それは、逆境対策の欠如。人脈というのは追い風のときには「5つのステップ」にそれほどこだわらなくとも結構出来てしまうものだが(「白馬の王子様症候群」はその裏返しでもある)、逆境の時には波打ち際に書いた砂絵のごとくなくなってしまうものでもある。「金の切れ目が縁の切れ目」などという言葉もあるではないか。

私に言わせれば、逆境に洗われて残ったものこそ、人脈として扱うに足りるものである。この「洗い」を経ていない「コネ」を人脈にカウントしてしまうと、困った時に泣きっ面にハチになるので二重に痛い思いをする。

しかし、本書に限って言えばこの指摘の欠如は、むしろ「知らないものは書けません」という著者の誠実さとして感じられた。確かに著者の経歴を伺う限り、「逆境で人脈が磨かれた」機会がそれほどあったようには見受けられない。下手に他者の経験を引用して演繹するよりも、書かずに済ませてしまうのも執筆術の一つである。確かに「大きくなりすぎたコネをどうしたものか」というのは贅沢な悩みなのだし、贅沢な悩みゆえに後回しにしてもよい。

それでも実のところ、私が一番知りたいのは「人脈の築き方」より「人脈の剪定」(connection pruning)なのだが、かくいう私もこと人脈に関して言えば「なにもせずに済ませ」てきた。「人脈は死なず。ただ忘れ去られるのみ」というわけである。あまりに増えたコネがそれを強いて来たところがあるが、逆にこのことは「コネ持ちに対してコネ無しがどうふるまうべきか」も教えてくれる。

それが、「コネループ」である。私がここででっちあげた言葉だ。著者はこれの活用が実に上手である。著者のblogを見てみよう。これほど充実した「逆書評」が今まであっただろうか。

ここまでされたら、コネを放置できない。忘れられない。

かくして、私も上手に著者の人脈に取り込まれたわけである。

前述のとおり、人脈に関する本は今や少なくない。しかし、著者ほど言行一致を簡単に検証できる書き手は今のところそうはいないだろう。数ある類書の中で本書を推す次第である。

Dan the Man with too Many Connections to Manage