講談社Bizの広部様より献本御礼。
オビに「6年連続ランキング1位のエコノミストが」とあるが、確かに納得。
これだけ難しい問題を、これだけ易しく説明できるエコノミストは、確かにいない。
本書はその「6年連続ランキング1位のエコノミスト」が、日本経済の問題を10個取り上げた上に、10年先のケーススタディを一つ取り上げた一冊。
- 第1章 日本の個人消費は「女性依存」
- 婦人服売上高にカギがある
- 第2章 お父さんのこづかい減少でわかる「交際費依存」体質
- 「消費弱者」に逃げ場はあるのか
- 第3章 なお残る「建設業依存」と構造調整圧力
- 中小・非製造業は生き残れるのか
- 第4章 食料の「海外依存」は本当に問題なのか
- 40%の食糧自給率が意味するもの
- 第5章 緩和への熱が冷め「規制依存」に逆戻りする日本
- このままでは国ごと沈んでしまうのか
- 第6章 教育はどこまで「学習塾依存」を強めるのか
- ゆとり教育が生んだ3つの弊害
- 第7章 景気判断や買い物で「マスコミ依存」する日本人
- 景気の波と報道の影響力の関係
- 第8章 投資に移行しにくい家計運用の「預金依存」
- 間接金融中心で何が悪い?
- 第9章 主導権を握れず「外国人依存」が続く金融市場
- ブレークスルーを生む政策を打ち出すために
- 第10章 日本経済はやっぱり「米国依存」
- 否定された「デカップリング論」
- 第11章 ケーススタディ:
- 少子高齢化の秋田県は「日本の未来図」
それらをまとめるのが、「依存症」というキーワード。目次を見ての通り、日本経済の問題を一言で表す言葉として、これほど的確なものはない。このキーワードを見つけただけで、本書の成功は約束されたようなものだ。
実のところ、同様の指摘は「世界経済危機 日本の罪と罰」でもなされている。しかし同書が金融にフォーカスするあまり「外国人依存」と「米国依存」の指摘に留まっているのに対し、本書は「依存症」という「疎にして漏らさない」キーワードを用いることにより、金融のみならず経済全体をカバーすることに成功した。
著者の言葉は、文学部史学科出身(!)ということもあってか、「学々」していない。経済学用語をきちんと注釈しつつも遠慮なく使う野口悠紀雄とは対照的だ。それでいて、そこに盛り込んである数値やグラフの質量は、「学々」した経済書に勝るとも劣らない。
なのにfigure(数値や図)に圧倒されないのは、著者の公私の切り替えの絶妙さにある。著者はこうした「大きな絵」を取り上げつつも、自らの体験を語ることを厭わない。おかげで同じ内容でも、「上から目線」は全く感じない。他が「壇上から」語りかけているのに対し、著者はあくまで一般読者と同じ目線の高さを保とうとする。
その著者の真骨頂が、最終章。ここで著者は秋田県を「日本の10年後」として取り上げる。著者にもいくばくか縁があるという「私的」な理由もあるが、秋田県が「日本のモデルケース」として適切なのは本書を読めばわかる。
このように本書は「今日本経済に何がおきているのか」という点において現時点で最もわかりやすい一冊であるが、しかし「今後日本経済はどうしたらよいか」という設問に対する問いに対する答えは、秋田県の事例を見てもそれほど明るいものは多くない。しかし著者に限らずエコノミストたちが共通して推すのは、教育に対する投資で、この点で秋田県が「明るいニュース」を提示しているのは救いではある。
というわけで、「現時点での日本経済がわかる本」としては、現時点では本書が一番である。去年のうちに読めたら「404 Blog Not Found:2009年の仕事始めまでに読んでおきたい12冊」に確実に入れていたはずだ。しかし「依存症」とはこれまた痛い。「すぐに直らない」という点まで的確なのだから。
Dan the Economic Animal
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