ブルーバックス編集部志賀様より献本御礼。

すぐに役立つ本、とは言いがたいけど、実に面白い。

いや、風邪ひきにはすぐに役に立つかな。

本書「進化から見た病気」は、進化医学、またはダーウィン医学のすすめ。ダーウィン医学とはこういうものだそうである。

進化から見た病気 「ダーウィン医学」のすすめ 栃内新 講談社
「ダーウィン医学」は、医師のネシーと進化生物学者のウィリアムズによって1991年に提唱された。進化論をもとに、病気を中心とした、ヒトの身体に起こる不都合の意味を探り、治療・解決法の手がかりとすることをめざしている。ダーウィン医学が示す、ヒトの自然治癒力を生かすことの必要性や現代の医療が抱える問題点から、新しい「病気とのつきあい方」が見えてくる。
目次 - 進化から見た病気 「ダーウィン医学」のすすめ 栃内新 講談社より
第1章 「ダーウィン医学」とは何か
第2章 風邪をひいてから治るまで 「ダーウィン医学」を理解するための練習問題
第3章 ヒトは病気とどうつきあってきたか
第4章 感染症 ヒトと病原体の進化競争
第5章 生活の変化が引き起こした「文明病」
第6章 遺伝病 〜良い遺伝子・悪い遺伝子
第7章 トレードオフ進化 進化が作り出した身体の不都合
第8章 先端医療はヒトの進化を妨げるか
第9章 老化と進化

本書は、まず進化というのがもはや「論」ではなく、「今そこにある現実」ということをきちんと指摘した上で、風邪やアレルギーといった「よくある病気」から、「死」に至るまで、ヒトという生物が一生を通して経験する「イベント」が、進化という観点からどう見えるのかを改めて紹介していく。

まず、進化が事実であるということについて。今や進化というのは化石などの「状況証拠から推察される論ではなく」、細菌やウイルスといった、世代交代が早い生物に関しては「リアルタイムで観測できる」時事実であり、進化「論」ではなく進化「学」と言うのがふさわしいと著者は述べる。ここまでは私も知っていてかつ禿同(そういえば禿は進化学的にどうなのだろう)だが....

P. 16
それを象徴するように、二〇〇八年九月十五日に英国国教会は公式ホームページで、ガリレオの地動説に続いて二度目の大きな過ちを犯したとして、ダーウィンの進化論を非難しづけてきたことを正式に謝罪した。

まじ?どれどれ....

Good religion needs good science | Church of England
The trouble with homo sapiens is that we’re only human. People, and institutions, make mistakes and Christian people and churches are no exception. When a big new idea emerges which changes the way people look at the world, it’s easy to feel that every old idea, every certainty, is under attack and then to do battle against the new insights. The church made that mistake with Galileo’s astronomy, and has since realised its error. Some church people did it again in the 1860s with Charles Darwin’s theory of natural selection. So it is important to think again about Darwin’s impact on religious thinking, then and now ? and the bicentenary of Darwin’s birth in 1809 is a good time to do so.

ほんとだ。これは知らなかった。

どちらかというと、本書に書かれている知見は、他の書籍や記事で断片的には紹介されていたものが多く、こういった読み物が好きな私にはどちらかというと「まさか」というより「やはり」というものが多かったが、こうして一冊にまとまるとかなり読み応えがある。久々に面白いブルーバックスだった。

5号館のつぶやき : ダーウィン医学のすすめ
よろしければ、書店でお手にとってご覧いただけると幸いです。アマゾンでは、もう1冊新書を買って1500円以上は送料無料サービスをお使いいただければ、と思います。
光文社新書の「暴走する脳科学」などはいかがでしょうか。

暴走する脳科学」もいいのだけど(あ、まだ未書評だった)、本書との読み合わせだとむしろ「「退化」の進化学」がおすすめ。同じブルーバックスということもあるけど、本書が主に分子生物学的な、ミクロな進化を扱った話題が多いのに対し、同書は解剖学的なマクロな進化を扱っていていい具合に相互補完するので。

今はまだ「知る、見る」の段階が主のダーウィン医学だが、「治す」段階にはいつ来るのだろうか(「治る」はすでにある、というかダーウィン医学の真骨頂)。すでにパソコンでやっているように、毎晩ワクチンをダウンロードするとか....

「病気も死も進化の賜物」だとは理解しつつも、とりあえずものもらいでお岩さん状態になってしまった左目はとっとと治って欲しいところだ。週末に限ってこうなるのってどうよ。明日も治らなければ治しにいくしかないかなあ....

Dan the Evolving Blogger