なんとも素晴らしい一冊。

asin:4062879484
理性の限界

不可能性・不確定性・不完全性
高橋昌一郎

著者による「ゲーデルの哲学」も素晴らしかったけど、より「一般人も知っておくべき「不○×性」が、新書一冊に見事に収まっている。

本書「理性の限界」は、まさにタイトルどおり、理性が理性であるがゆえに生じる限界--実は矛盾を、理性的に留まらず感性的にも、理系にとどまらず文系にも届く言葉でまとめた一冊。

目次 - 理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性 高橋昌一郎 講談社より
序章 理性の限界とは何か
第1章 選択の限界
投票のパラドックス / アロウの不可能性定理
囚人のジレンマ / 合理的選択の限界と可能性
第2章 科学の限界
科学とは何か / ハイゼンベルクの不確定性原理
EPRパラドックス / 科学的認識の限界と可能性
第3章 知識の限界
ぬきうちテストのパラドックス / ゲーテルの不完全性定理
認知論理システム / 論理的思考の限界と可能性

特徴的なのは、各章ごとに、各章のテーマにそって仮想パネルディスカッションをしていること。ここに作者のとてつもない力量を見る。それぞれの仮想人格をきちんと作り上げないと成立しないのだから。ダイアログ形式で二名の仮想人格を作るだけでも大変なのに、本書では二桁におよぶ仮想人格が、それぞれの視点から彼らなりの理性の限界に挑んでいる。

もう一つ特徴的なのは、その理性の限界につきあたった実例を必ず紹介していること。不可能性と選挙。不確定性と観測、そして不完全性と証明。「理性の限界」というといかにも哲学的かつ形而上的だが、本書を読むとそれが以外にも実学的で、「今、そこにある問題」であることがわかる。

たとえば民主主義。2000年の大統領選挙で選ばれてしまった大統領が本日やっと退任した。しかし選挙の方法を「十分厳密」にするだけで、民主主義が成り立たなくなってしまうことをArrowが証明したが、この不可能性定理は、意外にも第二章の不確定性原理や第三章の不完全性定理ほど知られていない。私も「そういう定理がある」ということまでは知っていて、不完全性定理の発見者である Goedel がそれのおかげで(Arrowの名が出たかはしらないが)合州国の帰化申請をぶちこわしにしそうになったというエピソードまでは記憶していたのだが、本書を読むまではそれをきちんと考えてこなかった。

そして本書を通してこれらの「限界」を見ることで、理性の限界というのは「壁のように」そびえ立っているのではなく、むしろ「落とし穴」のようにあちこちに控えているという構造が見えてくる。無限ループからコンドルセのパラドックスまで、理性の落とし穴は日常のいたるところにある一方、理性そのものが「これ以上は何もない」ところまでない、すなわち進もうと思えばいくらでも進めるものでもあることが、本書を通してひしひしと伝わってくる。

難しそうな名前はたくさん出てくるが、しかし理解が難しい本ではない。しかし応用、すなわち「限界をどう乗り越えるか」はやはり難しい。これぞ名著である。すぐに読めるのに、何度も読み返したくなる。でも読み返すのがちょっと怖い。こういう本こそ常備しておくにふさわしい。あなたの本棚にも、是非。

Dan the Reasonably Irrational