日本実業出版長谷川様より献本御礼。

初出:2009.01.22; 販売開始まで更新

これだよ、これ!

こういう法律の本を待っていた!

法律というものを知りたい人が、最初に読むべき一冊。

すでに読んでしまった本のことをきれいさっぱり忘れてでも、そうすべき一冊。

本書「六法で身につける 荘司雅彦の法律力養成講座」は、「書評 - 最短で結果が出る超仕事術」ならびに「嘘を見破る質問力」が、いよいよ本職である法律について書いた渾身の一冊。間違いなく、著者の最高傑作であり、今後の一般向け法律本のあり方を根底からくつがえすことになる作品。

目次 - Amazonより
第1章 六法ってなんだあ?
1 六法全書の役割
2 法律の基本となる六つの法律
3 六法も分量が多いけど……
4 法律センスを身につける六法の使い方
第2章 法律のキモ「基本的人権の尊重」
1 すべての法律に通じる大原則
2 国民主権と平和主義は偉くない?
3 憲法はお上に対する命令
第3章 憲法の授業―バランス感覚を身につける―
1 統治機構と人権の意義
2 人権規定をどう読むか?
3 対象によって違憲判断の基準が異なる
4 憲法9条の問題
第4章 刑法の授業―論理力を身につける―
1 刑法を知るための四つの練習問題
2 刑法の大原則「罪刑法定主義」
3 刑法のキモ「総論」
第5章 民法の授業―観察眼を養う―
1 民法は私法の一般法
2 民法の体系
3 誰が権利を持っているのか?
4 権利の客体の種類
5 四つの原因から発生する権利の主体同士の関係
第6章 商法の授業―ビジネス感覚を磨く―
1 商法の意味
2 会社法は商法から独立して存在する
3 手形と小切手
4 商法総則のひとつ商行為
第7章 刑事訴訟法の授業―トラブルから身を守る―
1 刑事訴訟法の最大の理念
2 捜査が開始されるきっかけ
3 被疑者を起訴する手続き
4 刑事裁判の進行
5 判決に不服がある場合
第8章 民事訴訟法の授業―争いを切り抜ける―
1 民事訴訟の提起
2 裁判所の審判の対象「訴訟物」
3 裁判所は争っている部分以外は判断できない
4 民事訴訟法の難問「要件事実」
5 刑事訴訟とのちがい

これまでの一般向け法律本というのは、いわばFAQだった。相談内容があり、それを法律家がどう解釈するかという Q & A の羅列。確かにわかりやすいし即座に役に立つけど、はっきり言って対処療法。「法」というヤマタノオロチどころかヤオヨロズノオロチの頭をいくらつぶしても、焼け石に水という感じが常につきまとっていた。

本書は、違う。いきなり法の心臓を射抜き、「法」という怪物の身動きを止めた上で、じっくり各論を括弧撃破して行く。本書に登場する法律は実に少ないのに、憲法、刑法、民法、商法、民事訴訟法、そして刑事訴訟法の六法のエッセンスをすべて網羅できたのは、この「核心から委細へ」という大胆なアプローチがあってこそだ。

今までの法律本というのは、「偶数って何?」という質問に「2でしょ、4でしょ、6でしょ....」と答えていたようなものだ。はっきりいって「算数」である。本書では、最初に「2で割り切れる数」とはっきり答える。「数学」的なのだ。

それでは、本書全体を貫くロンギヌスの槍である、法の大原則とは一体なんだろうか。

基本的人権の尊重、である。

著者に自ら語ってもらう。

P. 18
個人の権利は最大限尊重されるべきものであり、各個人は他者の権利をおかさない限りいかなることをも行う自由を有する
ということです。簡単でしょう。

よって、最重要の法である憲法でも最重要なのは、第十三条ということになる。

P. 41
そして、その憲法の中で一番偉い条文は憲法13条です。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

そしてこう続ける。

 この場合の「公共の福祉」というのを「他者の権利」と考えれば、
個人の権利は最大限尊重されるべきものであり、各個人は他者の権利をおかさない限りいかなることをも行う自由を有する
 ということになりますよね。

そう。著者は「公共の福祉」を「他者の権利」と言い換えてよいと言い切っているのである。

ここまではっきりと言い切ってくれた法律家は、他に居なかったのではないだろうか。

私が以前

404 Blog Not Found:本当は怖い日本国憲法
憲法12条に照らし合わせれば、何をしても「公共の福祉」にならないなら「権利の濫用」認定されかねない。もちろん第21条(言論の自由)も。

という疑念を発したのも、そこまでの自信がなかったからである。「そうじゃないよ」というコメントやトラックバックもたくさん頂いたが、今ひとつ納得できなかった。いずれもここまですっぱりと言い切ってなかったからである。

とはいうものの、私は100%納得したわけではない。「公共の福祉」と「他者の権利」が不一致な例もあまりに多く、そしてそういう場合には「公共の福祉」の名の下に個人の権利がないがしろにされてきた例もあまりに多く見てきたし、その逆に、明らかに他者の権利が損なわれているのに個人の権利がまかりとおっている例もこの国にはあふれているのを知っているからだ。

しかしそれは、著者の目にしてみれば、我々の法律力が足りないからそうなる、ということになる。例えば憲法第九条。これもまた「基本的人権の尊重」から導くことができることを著者は示した上で、

P. 71
もはや、自衛隊を合憲とするのは、今の憲法では不可能でしょう。

と言い切っている。この状態の放置は、まさに法律力の欠如の結果なのである。

はじめに
「法律力」とは私の造語で、法的思考力と法解釈力を併せたものです。

いいかげん「○×力」の乱造は勘弁してほしいという立場の私だが、この「法律力」は全面的に支持する。我々日本国民に足りないのが、これだ。「個人の権利は最大限尊重されるべきものであり、各個人は他者の権利をおかさない限りいかなることをも行う自由を有する」という法律力の源泉がその力を最大限発揮出来ていない理由もそこにあるのだから。

もっと法律力を!

Dan the Free Man, de Facto and de Jure