理念の上でも理屈の上でも正しそうなこの提案なのだけど....

大竹文雄のブログ: 非正規雇用問題
蓄積した内部留保では、企業が雇用や賃金を維持できない、というのであれば労働者も負担を引き受けざるを得ない。しかし、正社員の既得権益を守るために非正社員に負担を押しつけていいだろうか。非正社員が不安定な雇用と引き換えに高い賃金をもらっていたのだろうか。実態は逆である。正社員と非正社員の不当な格差を温存することのコストは大きい。たまたま、就職氷河期に学校を卒業しただけで、非正社員になって、低賃金な上に景気変動の影響を大きく受ける。これほど理不尽なことはない。新規採用の停止や非正社員の雇い止めをすることが、解雇権濫用法理という判例法理のなかで、企業の解雇回避努力として評価されるいうことも問題だ。

実装のことを考えていたら、とんでもない穴があることを発見してしまった。

雇用者の売り上げが増えない限り、雇用するよりも生活保護の方が安上がりなのだ。

理由は簡単。雇用においては被雇用者の手取りを100%に出来ないからだ。たとえ机どころか椅子すら用意しなくとも、健康保険だって折半。実際のところ、一人雇用するためには、給与と同額の諸経費がかかるというのが雇用者の実感ではないだろうか。

これに対し、その給与分を政府に寄付し、政府から生活保護という形で手渡すと、雇用者から「非」雇用者には100%手渡せることになる。必要経費の分、節約できてしまうのだ。

何もしないで金だけ手渡した方が、売り上げが増えない中で働いてもらうより多く渡せてしまう。雇用に必要経費がかかる以上、このジレンマは常につきまとうことになる。雇用を通してお金を分配するぐらいなら、雇用を通さず直に分配した方が効率がいいというのは我が家の小1の次女にも理解できる論理ではある。

それではただ「捨て扶持」を与えるだけでいいかというと、そうも行かないだろう。

正社員の既得権にメスを - 池田信夫 blog
景気変動のショックを非正規労働者にしわ寄せする現在の雇用制度は、中高年の余剰人員を残す一方で、若年労働者の技能蓄積をはばみ、日本経済の潜在成長率を低下させるおそれが強い。

からだ。特に若年労働者の技能蓄積をはばむというのは曲者で、それなしには会社も国も将来はない。かといって「売り上げなき雇用」は、「失業税を再配布」よりも救える人が減ってしまう。どうしたものか。

やはり「仕事」と「福祉」は分離せざるを得ないのではないだろうか。

「仕事」と「福祉」の「癒着」は、正社員「過保護」の正当化の口実にもなっている。曰く「女房子どもがいるから」「父母を介護しなければならないから」「雇用の安定を信じて住宅ローンを組んだのに....」これらを個人負担ではなく、公的負担ということにしてしまって、はじめて中高年と若年は同じ土俵に立つとも言える。「扶養は公がやるから、私の値段は市場で決めろ」、と。

そうやって考えると、同一労働同一賃金のもとでの解雇規制撤廃の実現というのは、むしろ高福祉高税率型の社会の方が実現しやすいのかも知れない。

Dan the Self-Employed

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