エクスナレッジ深澤様より献本御礼。

世界一の富豪の等身大の姿が、最もよく描写された良著。

本書「バフェットの株主総会」は、オマハの賢人こと Warren Buffet が運営するBerkshire Hathawayの株主総会をヘッジファンドを運営する著者が2007年そして2008年の二度に渡って「巡礼」してみたレポート。何がそこで語られたのかであればそこに居た者であれば書けるが、本書のキモは何がそこで語られなかったかにある。

目次 - Amazonより
はじめに――オマハ巡礼
Part I とても合理的な会社 2007
序 生まれながらにして
1 一大イベント
2 なぜオマハなのか?
3 新聞世代
4 オマハの賢人
5 混成グループ
6 計算は理にかなったものであるべき
7 バフェットの成績表
8 バフェットの時間の価値
9 未来のバフェットたち
10 世界一の万能型投資家
11 内部情報
12 あの人をがっかりさせたくない
13 闖入者
14 誰を信じるか?
15 気むずかしい年寄り?
16 巧みな言い逃れ
17 0.5パーセント
18 これからどうなるか?
19 自動車の旅
20 バフェットの最後の5セント
21 「ここはとても合理的な場所です」
Part II オマハ再訪 2008
序 ファミリーの再会――2008年5月3日土曜日、ネブラスカ州オマハ
22 回避された世界の終末(ハルマゲドン)
23 1パーセント
24 ビューティフル・デイ
25 例年どおりの進めかた
26 最長老の経営者を探して
27 ウォーレンならどうするか?
28 エンロン問題などかわいいもの
29 狼少年
30 救いようのない愚かな騒ぎ
31 呼吸するように
32 公然の秘密
33 バフェットのレーダー
34 ファミリーの問題
35 バークシャーのフリーマーケット
36 七聖人の衰亡
37 二言はない
38 わたしはきのう、死にました
39 いちばん大きな希望
終章 バフェットが去ったあと
謝辞
訳者あとがき
朝早くから、午後の半ばまで、株主たちは思い思いの質問をし、バフェットがそれにひとつひとつ答える。質問者の数は50人以上。質問の内容は、投資で大成功する方法についてから、10歳の野心的な少女が最初に就くべき職業についてまで、多岐にわたる――

70代の バフェット と、そして80代の マンガー が5時間以上を費やして、50以上の質問に答えて行く様はすごいの一言。株主総会かくあるべし、と言いたいところであるが、著者--そしておそらく読者--は、そこである質問がほとんど全くなされていないことに気がつく。

事業会社としての、バークシャー・ハザウェイに関する質問だ。

投資会社としての同社のパフォーマンスは、神業と呼ぶに相応しい。バフェットが経営権を握った時点では18ドルだった株価は、2007年後半には15万1650ドル。その間に、ダウ・ジョーンズ工業平均は1425パーセント、14倍しか上がっていない。バークシャーへの投資は、ダウ平均への投資の533倍にもなったのだ。

しかし同社は、76もの事業会社の持ち株会社でもある。「ファミリー」と呼ばれるこれらの企業は、プライベートジェットの共同利用を進めるネットジェッツから、ナイフの製造メーカーまで含まれる。これらのファミリー企業にとって、オマハの株主総会はまたとないかきいれ時だ。ネブラスカ・ファニチャー・マートに至っては、この株主総会の週末だけで年間売り上げの1割以上を得ている。

この「ファミリー」が、ぱっとしないのだ。

バフェットはこれらのうち特に七社を、七聖人と褒め讃えた。これらの七社とは、

P. 364
ワールド・ブック・エンサイクロペディア、バッファロー・ニューズ、掃除機のカービー、作業服のフェックハイマー、ギンズナイフなども手がけている複合企業スコット・フェツァー、シーズキャンディーズ、そして、バフェットの自慢の種で、”北米最大の家具店”と謳うネブラスカ・ファーニチャー・マート

である。これらのうち、一社でもご存知でかつバークシャーの株主でない日本人はいるだろうか。私も本書を読むまで知らなかった。だといって恥じ入る必要は全くない。なにしろ

P. 365
シーズキャンディーズを除けば、”七聖人”はもう何年も前から聖者の行進をしていない

のだから。シーズキャンディーズにしても、たとえばネスレやユニリーバとはほどとおい。

何が、聖人たちを「まったり」させてしまったのだろうか。

是非本書で確認していただきたい。

そこにこそ、オマハの賢人の実像がある。

著者は二回にわたって株主総会に出席し、そしてその都度ネブラスカ・ファーニチャー・マートを訪れているが、その一方でバフェット本人とはあえて直接話していない。距離を保ってこそ見えてくることが確かにあるのだ。偶像崇拝とはほどとおい著者ですら、本人と直接対話したら「感化」されてしまうかも知れない。バフェットはそれくらい魅力的な人物であり、そしてパートナーであるマンガーはそのバフェットに劣らぬほど賢明な人物である。彼らの魅力を余すことなく伝えつつ、それでいてのぼせてしまうことがない著者ほど、バフェットウォッチャーとして適任の人物はいないだろう。バフェット伝は、正直この一冊で必要十分ではないか。

Dan the Layman