スルーするつもりだったけど....

見事に空気を読んだ本「資本主義はなぜ自壊したのか」中谷厳 - ガ島通信
「懺悔の書」「改革派の転向」。さまざまな話題を呼んでいる中谷巌氏の『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』。新自由主義が注目されれば構造改革の旗を振り、貧困や格差が問題になれば、昔が良かったと憂いて見せる、見事に社会の空気を読んだ風見鶏ぶりに、飽きれると言うより、感心すらしてしまいます。

ここまで言われているからには自分でも確認しようと、Amazonの在庫が切れているので

経由で買って読んでみた。

本書「資本主義はなぜ自壊したのか」は「中谷巌はなぜ自壊したのか」の誤植....というのはシャレだけど、そのシャレが本題としか思えない一冊。

目次 - Amazonより
序章 さらば、「グローバル資本主義」
第1章 なぜ、私は「転向」したのか
第2章 グローバル資本主義はなぜ格差を作るのか
第3章 「悪魔の碾き臼」としての市場社会
第4章 宗教国家、理念国家としてのアメリカ
第5章 「一神教思想」はなぜ自然を破壊するのか
第6章 今こそ、日本の「安心・安全」を世界に
第7章 「日本」再生への提言
終章 今こそ「モンスター」に鎖を
見事に空気を読んだ本「資本主義はなぜ自壊したのか」中谷厳 - ガ島通信
ハーバード留学時代の思い出、率直な反省は興味を持って進みましたが、ブータンやキューバ礼賛あたりでずっこけはじめ(田舎にやってきた都会の人が、「こんなすばらしいところがあったのですね」と言いながら住むことはない、という旅の思い出レベル)、途中からは世界の宗教や神話をつぎはぎしてトンデモ本の様相に。

この通りの本であるが、たとえそういう本であっても、もし本書が本当に「懺悔の書」であれば、素直に一読出来たであろう。問題は、著者が懺悔などちっともしていないことにある。

その証拠が、以下だ。

 もう一つ、最近、国民の不評を買ったのが「後期高齢者医療制度」の導入である。七十五歳以上の高齢者を対象に、年間六、七万円程度の保険料を年金から天引きするという。
 たしかに老人医療費の増大は深刻な問題ではあるだろう。だが、厚労省によって「後期高齢者」と指定された人たちは日本が経済大国になるうえでの立役者に他ならない。いかに財政難だとはいえ、そのような功労者に対して、いきなり保険料を年金から天引きするという過酷な政策を打ち出すのは、国家として正しいあり方だろうか。
 むしろ、どんな知恵を使ってでも「日本社会に対する貢献に感謝して、これから医療費はすべてタダにいたしますので、安心して余生をお過ごしください」とするのが為政者というものであろうし、「敬老の精神」というべきものであろう。

この後期高齢者こそ、これまでの問題を放置し、政治に背を向け、著者のいうところの「モンスター」にさんざん餌を与えてきた人々ではなかったのか?

はっきり言おう。本書は懺悔の書ではないし、著者は変節したわけではない。著者はこれまでもポジショントーカーであったし、そして本書もポジショントークであるという点で、自らの立場に忠実なのである。

そもそも、著者が言うところの終身雇用や年功序列自体、ごく一部の大企業を除けば神話であったことは、「格差と希望」が明らかにしている。ありもしない伝統に回帰せよとは、それこそ神話の時代に戻れと言うに等しい。

資本主義はなぜ自壊したのか - 池田信夫 blog
自壊したのは資本主義ではなく、著者である。

このことをわざわざ1785円を払って再確認した自分の酔狂さに我ながら呆れるが、しかし実際に読んだからこそそれ以上だまされずにも済むという効用は確かにあり、そして著者の世代から次々と繰り出される「自己撞着」にも反論できるというものではある。著者の「懺悔」ぶり、「変節」ぶりは、団塊の世代が国家権力に対してとった態度にあまりによく似ている(著者は1942年生まれなのでそれより少し前であるが)。本書の最大の価値が、そこにある。

Dan the Fooled