前回と同じく、紀伊国屋書店出版部黒田様および水野様より献本御礼。

経済は感情で動く」の続編的位置づけの本書であるが、前著より面白くて役に立つ。Sequel(続編)が「第一話」より出来がいいというやや珍しい例だ。

本書「世界は感情で動く」の原題"Trappole Mentali"は、「感情の罠」。前著は「感情経済学的に人はどう振る舞うか」という「原因」に主眼がおかれているのに対し、本書では、「その結果何が起こるか」という「結果」と、「それが望んだ結果と異なることを防ぐにはどうしたらよいか」という「対策」に主眼がおかれている。

目次 - Amazonより
はじめに―「脳のトラップ」を知ろう
パート1 まずは心の準備体操
1.予言どおりに銀行は倒産した―予言の自己成就
2.つらい検査が快適になる方法―ピーク・エンドの法則
3.一ドル買うのにいくら払うか?―コンコルドの誤謬
4.「まだ半分もある」と「もう半分しかない」―フレーミング効果
パート2 あまりに人間的な脳
5.表が出たら私の勝ち、裏が出たらあなたの負け―基準値の誤り
6.「ホットハンド」の持ち主を探せ!―大数の法則
7.マリアの職業を当てなさい―代表性のマジック
8.偶然にも規則があるはずだ―偶然に秩序をみる
9.「タバコはがんの原因になります」―原因と結果の相関関係
10.指紋もDNAも確実ではない―確実性効果
11.ショッキング度で決まる重大事件―統計より感情
12.バーゲンセールの「からくり」―アンカリング効果
13.見えてはいても、見ていない―注意力の欠如 その1
14.バスケットのコートにゴリラがいた?―注意力の欠如 その2
15.「あらゆる病気と事故のための保険」―注意の焦点化効果 その1
16.宝くじが当たった直後は幸せだけど―注意の焦点化効果 その2
パート3 集団のなかでの困った判断
17.他人には辛く、自分には甘い―帰属のエラー
18.うぬぼれ屋の言い訳―自己奉仕的バイアス
19.「愚か者の親玉」はリッチになる―集団の知恵
20.占いはどうして当たるのか―バーナム効果
21.そう考えない人はどうかしている―フォールス・コンセンサス効果
22.みんながやっているから―群れ効果
23.イラク戦争はこうして始まった―集団思考
24.こっちの仲間はダントツだ―集団規範
25.あっちのひとはすべて凡人―他の集団への偏見
26.高いワインのほうがうまいわけ―ハロー効果
27.ペニスは一〇人中九人が平均より長い!?―自信過剰
28.強く願えば実現する―願望的思考
29.正しい病名の診断は「あとから」つく―後知恵
30.目撃者の証言は「作られる」―偽りの記憶
31.いらない枠を作ってしまう―無意識のいたずら
32.発言するのは最初がいい? それとも最後?―順序効果
パート4 いざ、決断のとき
33.ダイエットは明日からはじめよう―プランニングの誤り
34.リターンを考えすぎる人、リスクを考えすぎる人―欲深と尻すぼみ
35.都合のいいことだけを覚えている―明るい記憶
36.今のままがいちばんいい―現状維持
37.読みたいように読んでしまう―先入観のトラップ
38.サルにならって取引をする―損失回避性
39.「あの飛行機に乗ってさえいたら」―後悔の理論

目次を見てのとおり、本書にはさまざまな心理学的トラップが紹介されている。売り手としての立場で読めば、「売り上げ何倍」本を何冊も読むよりずっと役に立つし、そして買い手側から見れば「だまされるな本」に「まただまされる」より本書を一冊通読した方がずっとだまされにくくなるだろう。

著者がイタリア人らしいと思うのは、時には陥穽にハマったままの方がいい場合もあると指摘する感性。たとえば、本書の「はじめに」で紹介されているのはプラシーボ効果なのであるが、英米的な本であれば、

もしライオスが、おまえはいつか息子に殺されるだろう、という予言に耳を貸さなかったら、オイディプスを捨てたりはしなかっただろうし、オイディプスも彼を襲ったり母と結婚したりはしなかったでろう。

で終えていたところを、著者は

しかしながら、もしその予言が実現しなかったら、私たちは文学史のなかでも最高傑作の一つである作品を、楽しむことができなかったのだ。

と続ける。その上で、

例の「でんぷんの粒」にしても、効き目はないはずなのに、頭痛をほんとうに治してしまうのだから。

このスタイルが、本書を貫いている。よく言えば明快だが、押し付けがましいスタイルが多いこの話題の本として、実に落ち着く。前著もそうだが、本著も英語を通さずイタリア語から直に訳したようだ。というか英訳が存在しないようである。本著を見つけた関係者各位の慧眼に脱帽だ。

Dan the Emotional Animal