ディスカヴァーより献本御礼。

初出2009.02.14; 販売開始まで更新

以下の言葉に偽りはない。

ディスカヴァー社長室blog: あなたならどう訳す? 日本人なら必ず誤訳する英文 ●干場
編集担当のフジタ部長が、つけたコピーは、 「英語自慢の鼻をへし折る!」 どうやらへし折られたのは、フジタ部長自身のようです

私もへし折られはしなかったが、鼻の曲がる思いがした。

「ネイティヴ・スピーカーでも誤認する英文」としても通ると弾言ではなく断言する。

本書「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」は、「ダ・ヴィンチコード」をはじめとするミリオンセラーをいくつも訳してきたプロの翻訳家による難解英語集。よくもまあこれほど集めたものだと簡単、いや感嘆せずにはいられない。現代日本のノンフィクションで、おそらく「英語本」というのは「お金本」の次に多そうなジャンルだが、ここまで歯ごたえがある本はほとんどない。

ディスカヴァー社長室blog: あなたならどう訳す? 日本人なら必ず誤訳する英文 ●干場
  1. Bobby was so absent-minded he didn't remember buying a birthday present for Linda.
  2. I waited for fifteen minutes--they seemed as many hours to me.
  3. Upon hearing of the new idea, Fred challenged it.
[ナンバリングは引用者]

これはまだちょろいレベル。ちょろいので機械翻訳させてみた。

英語翻訳 - エキサイト 翻訳
  1. ボビーが非常にぼさっとしていたので、彼は、リンダのためにバースデープレゼントを買っ たのを覚えていませんでした。
  2. 私は15分間待ちました--彼らは何時間も私にとって見えました。
  3. 新しいアイデアを知って、フレッドはそれに挑戦しました。

不合格。ではあるが、以下に比べれば格段によい。

Google Translate
  1. ボビー不在だったので、彼はリンダの誕生日プレゼントを買う気を覚えていない。
  2. 私は15分ほど待った-ように多くの時間をメインにしてください。
  3. 新しいアイデアを聞いた時には、フレッドに挑戦。

orz.

ちなみに、元文を添削してみるとこんなところか。

  1. Bobby was so absent-minded he didn't remember he (had) already bought a birthday present for Linda.
  2. I waited for fifteen minutes--it felt like fifteen hours.
  3. As soon as Fred heard of the new idea, he raised an objection to it.

これをもう一度Excite翻訳にかけててみる。

  1. ボビーが非常にぼさっとしていたので、彼は、リンダのために既にバースデープレゼントを買ったのを覚えていませんでした。
  2. 私は15分間待ちました--それは15時間のような気分でした。
  3. フレッドが新しいアイデアを知るとすぐに、彼は、それを反対しました。

おお、まともじゃないか。

より散文的に、口語的になってしまったが誤読の余地はぐっと減っている。文章はなるべく短く、節(clause)が長過ぎれば複数の文に分割するのも厭わず、受動態はなるべく避ける。「非論理的な人のための論理的文章の書き方入門」は、英語でももちろん役に立つ。本書は「こういう風に書くべからず」集としても使える。英語は母国語としてより外国語としてより使われる以上、多少のニュアンスを削ってでも主題が明快に伝わるよう話し、そして書くべきである。

が、それはあくまでノンフィクションの場合である。物語の場合、それでははっきり言ってつまらない。本書に出てくる表現の多くは、物語の地の文から来ている。「話せるだけ」の人は、かならず誤読し、そして誤訳するだろう。本書を通して、読者はプロの読み方を学ぶことが出来るのだ。

本書で改めて気がついたのは、英語に限らず文章=textというのは文脈=contextあってはじめてわかるということ。本書では難問とされている後半の例題の方がむしろ私には易しく感じられたのは、その方が文脈がはっきりするからだろう。

もう一つ、こと翻訳に関しては、ソース言語よりターゲット言語の知識の方こそ問われるという点。その意味で一つ誤訳とまでは言えないけれども適訳とも言えない問題を発見したのでこの場で指摘さえていただく。

P. 106
You may have the loan now you have offered good security.
→確実な抵当を出したのだから、お金を貸してもらえるだろう。

問題は「抵当」という言葉だ。"security"の訳としてここでは「抵当」を当てていて、これで意味は通るのだが、英語の security と mortgage 、そして日本語の「担保」と「抵当」は意味は同じでも重さはだいぶ違う。securityの中身が土地や建物といった property なら「抵当」が妥当だが、そうでなければ「担保」が妥当。この場合これ以上文脈がないので、使用範囲がより広い「担保」の方が適当なのではないか。

それにしても、新書(ディスカヴァー用語では携書)でこれだけ楽しめる本は久しぶりだった。こういうと起こられちゃうかもしれないが、ダ・ヴィンチ・コードよりこっちの方がずっと面白かった。

というわけで愉快な問題を引用して本entryを締めくくることにする。ちょっとだけ元より難しくした。高齢者向き?

Q-63 She said that that that that that boy used was wrong.

Dan the Nullingual