やっと全文が上がったので紹介。

邦訳はこちら。

今回は惰訳する時間がないので紹介のみ。

"Between a high, solid wall and an egg that breaks against it, I will always stand on the side of the egg."
「高く、固い壁と、それにぶつかれば割れてしまう卵があったとしたら、僕はいつも卵の側に立つ」

私は「嘘つき」としての村上春樹がそれほど好きでないのは、彼の嘘--小説中の人物が、どちらかというと壁に卵(その人物自身を含む)をぶちあててそれをあざ笑うタイプが多かったからかも知れません。それが壁の存在を見事に描き出していることはわかるし、それゆえ傑作だと認めるのはやぶさかではないけど、感情移入できない。たとえ嘘の卵であっても、傍らに立とうとしてしまう、いや、卵になり切ろうとしてしまうといったところでしょうか。

だから今回の「本当」は、実に受け入れやすいものでした。

壁と卵という比喩は、割るもの割られるものを超えた意味ももっているのかも知れません。卵はいずれヒナになり、ヒナはいずれ鳥になる。そして鳥であれば、壁を飛び越えることも出来る...

壊すばかりが、壁の向こうに行く方法ではないのかもしれません。

Dan the One of Many Eggs Confronting the Wall