早川書房小都様より献本御礼。

あの名著「世界大不況への警告」(The Return of Depression Economics)が、刷新の上お求めやすくなって再登場。早川書房、GJ!

本書「世界大不況からの脱出は、著者のノーベル賞受賞後初の書籍。ただし前述のとおり、すべて書き下ろしたのではなくて、10年前に現在の状況を予測した「世界大不況への警告」に、その後の出来事と今後の展望を増補し改訂したという形を取っている。質もよいが値段もよい本が多い早川書房のタイトルにあって、Amazonプライスきっかりというのがうれしい。

世界大不況からの脱出:ハヤカワ・オンライン
〈ハヤカワ・ノンフィクション〉グリーンスパン、金融規制緩和、そして恐怖の連鎖……ノーベル賞経済学者が二〇〇八年の経済崩壊を導いた構造を解き明かし、いま我々が何をすべきかを示唆。『世界大不況への警告』改訂増補版。
目次
序章
第1章 「問題の核心は解決された」
第2章 無視された警告 -- 一九九五年年、中南米諸国の危機
第3章 日本がはまった罠
第4章 アジアの恐慌
第5章 倒錯した性格
第6章 世界の支配者たち
第7章 グリーンスパンのバブル
第8章 影の銀行
第9章 恐慌の総和
第10章 恐慌型経済の復活
訳者あとがき

率直に言って、私はクルーグマンの提言部分が正しいかどうかはわからない。しかしその警告の正しさは今回「世界大不況」が本当に来たことで証明されたし、そして本書に限らずクルーグマンの本というのは正しさを抜きにしても実に面白くてためになる。さすが「ソウルフルな科学者」の最右翼、いや最左翼か。今では有名になった「ベビーシッター協同組合」、実は本著、性格には本著の前版がオリジナルである。その言葉に耳を傾ける価値はこれまでになく高いだろう。

それだけに、むしろ「本当にこれで見落としはないか」という点はなお強く感じるのだ。なぜならば、本書は「貨幣経済に対して閉じている」のだ。いわゆる外部不経済は一切登場しない。確かに金が起こした問題であれば、金というものを正しく扱えば問題は解決へと向かうはずであり、著者もそう主張していると私は受け取った。

しかし、そろそろその「なぜ我々は金をこうも不適切にしか扱えないのか」という、金ではなく、その使用者である我々の心理学まで踏み込まないと、またもや一時しのぎになりはしないか。著者も大ファンである「ファウンデーション」の言葉を借りれば、psychohistory の psycho の面にまで踏み込むべき時が来てはいないか。

もちろんそれは history をないがしろにせよ、ということではなく、そしてこの history の面において本書は最近出た本の中で最も面白くかつ説得力がある一冊であることは間違いない。その上今度はハードカバーではなくソフトカバーである。相対的コスト(コストパフォーマンス)だけではなく絶対的コストまで低いのである。これを読まずして今年の経済は語れないというのは確かだろう。

それでも、本書はもう一人のノーベル賞受賞者、ムハマド・ユヌスの言うところの「資本主義の未完成の半分」を完成へと導く本でもない。

まだ、何かが足りない。

しかし、本書は「最後のピース」ではなくとも、「欠くことの出来ないピース」であることは存分に感じられた。手元においておくことを勧める次第である。

Dan the Economic Animal