訳者より献本御礼。
こりゃまいった。なんとこれは、Programming Pearls以来のプログラマー -- そう、プログラマー -- の手によるエッセイの傑作だと弾言するしかないではないか。
だから参っているのである。本書を本当に読んでほしいのはスーツなのに、しかし実際にプログラムを書いたことがないと読めても味わえないということに。
本書"More Joel on Software"は、Joel on Softwareの単なる続編ではない。本書を読むのに必要な前著の前知識は一切必要ない。本書は本書のみで価値をもっているし、そして本書の価値は前著より高い。ずっと高い。
なぜなら、前著の時より著者も訳者も成長しているからだ。視野はより広くなり、そして視点はより鋭くなっている。それでいて、表現が洗練されているので、実に読みやすい。
しかし、誤解してはならない。本書が易しいのは読みやすさまでであって、味わいやすさとなると実に難しい。20代で本書が「わかった」といったら、そいつは知ったかぶりをしているだけだと弾定するのに私はやぶさかではない。本書の味がわかるためには、最低でも35年の人生が必要なのではないか。「経験」ではない。「人生」である。
スーツとギークの双方が「わかる」、少なくとも本書を「読破した」と得心するには、それくらい必要だと思い、感じる。前著からは感じられなかった感覚である。そして多分、前著と本著の最大の違いがそこにある。これほど「読みやすさ」と「納得しがたさ」のギャップがある本は実に久しぶりだ。
本書は読みやすい。ただし、「プログラマーにとっては」という但し書きをつけざるを得ないことがくやしい。著者も推薦した「Eric Sink on the Business of Software」はコードが読めなくても味わえる本だったが、コードが読めないと本書の半分は読めない。なんとなく雰囲気を味わうことは出来るだろうけど、しかし味わえない。私がスーツであればそのことを黙って勧めるのかもしれないが、偽ることはできない。本書には、コードがわからなければわからないことが山ほど出てくる。
しかし、本書にはそれでも入手する価値がある。そこがすごいところだ。それが、「味わえないけど読める」、いや読ますところだ。その象徴が、第一章、「はじめてのBillGレビュー」である。この章を一読すれば Excel はおろかスプレッドシートというものを使ったこともない読者でも存分に臨場感が伝わってくる。と同時に臨場感を超えて共感に至るためには、著者とBillGと同じぐらい、その問題 -- それがどんな問題であったかは読んでからのお楽しみ -- に対する実体験がいることも伝わってくるのだ。
これはまさに、
「高校生のための文章読本」pp.208
- 良い文章とは
- 自分にしか書けないことを
- だれが読んでもわかるように書いた文章
なのである。「体験を積まないとわからない」ということが、全く体験のないものにも理解できる。「プログラマにしか見えないものがある」ということが、まったくプログラミングの経験がないものにも伝わる。ちょっとした奇跡、いや魔術である。
本書を「味わい」、そして役立てられるのがプログラマーであること、それも駆け出しではなく「35歳限界プログラマー」であることは疑いない。しかし本書を本当に読んでほしい、そして読むべきなのはスーツなのである。本書の根底には、「プログラムせざるものにプログラマーなどわかるはずがない」という賢者が愚者に向ける視線、そう、蔑視がある。通常のエッセイ本の倍も払って入手したあげくに著者に軽蔑されるなんてひどすぎる?多いに悔しがってほしい。悔しがって悔しがった果てに、本書の「プログラマーでないと味わえない」部分も味わえるようになって欲しい。私は心底からそれを望んでいる。著者も含め、ギークからはじまりスーツを制した例は枚挙にいとまがないのに、その逆は実に希有なのだから。
というわけで書店のみなさん。
本書は、「ビジネス書」の欄においてくださいませ。プログラマーが本書を求めるのはあたりまえ。そうでない人こそ、本書を読んでじたんだを踏んでおくべきなのですから。
Dan the Coder/Blogger/Boss of His Own

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