築地書館より献本御礼。

「杉山農シリーズ」を締めくくる最終作は、三作中私が最も強い感銘を受けた一冊だった。

本書「農で起業する!実践編」は、「農で起業する!」「農!黄金のスモールビジネス」に続くシリーズ三作目。そしてまず間違いなく最終作。

目次 - 農で起業! 実践編より
「新しい」農業実践のための5箇条
はじめに 楽しく、豊かに、農で生きる
1 誰でも成功できる農の世界へようこそ
自由で楽しい農業を目指そう
就農前の準備が成功を決める
経営を進化させるデータ管理術
農業をビジネスに作り上あげろ
進歩と効率化に限界はない
2 農を実践する!
開花・実留り編
宅配サービス編
施肥編
発芽編
資材管理編
観光農園編
経営を自動的に進化させる
栽培管理と農業の未来
3 農を次世代に託す
農を廃業する!
責任ある撤退プラン
葡萄園スギヤマが目指す理想の撤退モデル
あとがき ライフスタイルのなかの農

本書、あるいは本シリーズ三部作をすべて買いそろえた上で実際に農の世界に入ることが出来る人は少ないだろう。農業の「キャリング・キャパシティ」は実はそれほど大きくなく、そして技術革新とともにむしろ減っていく。世界最大の農業国である米国の農家率は1%を切っている。

しかし、本シリーズが農を目指さない人にも実に大きな実りをもたらすのは、本シリーズにはスモールビジネスの神髄が書かれているからだ。その神髄とは、「ビジネス」の逆を行く、ということだ。

「ビジネス」の三原則は、以下のとおりとなるだろう。

  1. 業務拡大の法則
  2. 利益最大化の法則
  3. Going Concernの法則

「ビジネスとは、業務を拡大することで利益を最大化し、それを未来永劫つづけていくこと」というわけである。これはどんなビジネスにもあてはまるはずの法則である。

が、そのビジネス三原則こそが、今我々を苦しめている。元々ビジネスというのは、足りない果実を充分増やすための単なる手段であったのに、果実が足りても今度はその果実を売りさばくために奔走する。本末転倒とはこのことだ。

スモールビジネス、いやここは著者に敬意を表して「スギヤマビジネスの三原則」は、以下のとおりとなる。

  1. 業務縮小の法則
  2. 費用最小の法則
  3. Ending Concernの法則

これ、目的、すなわち目指す方向は通常のビジネスと逆でも、通常のビジネスと全く同じ手法が使える。著者の成功は、通常のビジネスで培った手法を、反対の目的に使ったことにあるのだ。

そしてこの法則の中で、最も重要かつ難しい Ending Concern を取り上げたのが、本書なのである。この一点において、もしかして本書はシリーズ中最重要の一冊なのかも知れない。

P. 191
蕨野行」という映画を見て、絶えて久しい強烈な感動を覚えた。
 年寄りが家族と集落の存続のために自ら姥捨て山に行くという、むかしから日本には語らずとも密かに伝わった種を保存する手立てがあった。
 後期高齢者医療制度がけしからんとか、医療給付が云々と声高に語る老人を見るにつけ、この人たちは勝手な人たちだなーと、悲しくなる。
 現在の制度と思想を演繹すれば人間社会は高齢者の重みで崩壊する。
 私は生まれた赤ちゃんに二〇歳になるまで選挙権を与えないのだから、老人も六十五歳になったら選挙権を剥奪すべきだと考える

この一節を見ただけで、私は救われた思いがした。

著者は1938年生まれ。その著者がこう言っているのである。

実はそう思っている老人--高齢者なんて言うものか--は、実は少なくないことを私は知っている。しかしこうきちんと公言できる人がいかに少ないかもまた知っている。この一言をどれだけ待っていたか。

しかし、著者は口だけの人ではない。そのためにどうするのか、本書には具体的に書いてある。本書の第三章は、中年以降の日本人必読なのではあるまいか。

Stay Hungry, Stay Foolish
No one wants to die. Even people who want to go to heaven don't want to die to get there. And yet death is the destination we all share. No one has ever escaped it. And that is as it should be, because Death is very likely the single best invention of Life. It is Life's change agent. It clears out the old to make way for the new. Right now the new is you, but someday not too long from now, you will gradually become the old and be cleared away. Sorry to be so dramatic, but it is quite true.

農というのは、季節の移り変わりを通してこのことを最も強く実感できる生業なのかも知れない。しかしこれがあてはまるのは農だけではない。あてはまらない人などいないのだ。

出来れば散り行く桜の木の下で読みたい、そんな一冊だった。改めてそう読み返してみることにしよう。

Dan the Mortal