出た、出た。やっと出た。
2009.04.08 初出 2013.10.31 文庫版発行につき改訂
この本を、待っていた。
こんな本を、ではなくこの本を。
そして、この国は待っている。
この本を最大限活用してくれることを。
本書「不透明な時代を見抜く「統計思考力」」は、「学力低下は錯覚である」をあざやかに証明してみせた著者が、その証明力を読者に分け与えるべく著した一冊。
目次(原著) - Discover - 書籍紹介
|
|
本書は,ビジネスパーソンのための統計リテラシーの本です.
ああ、「はじめての課長の教科書」もそうだったけど、なぜ名著の著者というのは自著のスコープを過小適応するのだろう。本書は、ビジネスパソーンにももちろん役に立つ。しかし本書は「有権者」、すなわち社会に対して権利を持つ者すべてに役に立つ、統計を超えたリテラシーそのものの本なのだ。
まだ社会がイエとムラしかなかった頃には、直感が現実にそぐわないこともそれほどなかっただろう。しかし今や我々が相手にしなければならない社会はずっと大きい。「ムラ」でさえ数千から数十万の人口があり、「クニ」ともなれば億を超え、そして「セカイ」ともなれば七〇億にも達しようとしている。
そんな大きな世界を直感するための糧がデータであり、そのデータを消化するのが、統計思考力なのである。そしてそれは、既得権益を有する、持てるものに対する、持たざるものの唯一にして最大の武器なのである。
第一章では、まず生のデータを丸呑みすることを学ぶ。実はそれだけでも見えなかったことが見えてくる。いや、世間の偏見がどれだけ我々を盲目にしているのかが明らかとなる。たとえば、「近頃の若者は本を読まない」という偏見がある。それがウソであることは、以下のグラフで一目でわかる。
全国学校図書館協議会|調査・研究|「第58回読書調査」の結果より - 文庫版P.43

「生データ一発で嘘発見」は、本blogの「常套手段」でもある。実はこの第一章を忠実に実行するだけでも、「ふつうの奴らの上」を行けるのだ。ここまでは、本書でなくとも「できる人々」はほぼ例外なくやっている。
しかし、本書のすごいのは第二章である。生データは諸刃の剣。そのまま呑むと腹を壊すことがある。そういう生データをいかに料理するのか。それが統計学である。統計学は理工学部でも実はきちんと教えず、頭ごなしに「こうしろ」と押し付けられることが多い学問なのだが、著者は「重点攻撃目標」を「分散」に定めることで、導出には大学レベルの数学が必要な「なぜこうする」を、中学生にもわかるように説明することに成功した。
してやられた、という感じだ。塾の講師をしていたとき、私もなぜ「標準偏差はなぜ2乗してルートを取るのか?」という質問を受けたことがあったが、どうしても彼女を納得させることが出来なかった。こんないい方があったとは!
これはどうやら本書の編集者である干場さんの功績であるようだ。すでにそれに慣れてしまったものには、「わからない」がわからないのだ。私もそうだし、著者もそうだっただろう。「わからない」を捨て置かなかった両者に乾杯。
そう。実は最も難しいのは、「そこに問題がある」を見いだすことなのである。それが第三章の課題であり、そして問題は見つかり次第、第一章に戻って料理すればいい。本書は見事な環となっているのである。
本書で唯一残念だったのは、内容ではなく出版時期。出来れば3月中に出してほしかった。「ビジネスパソーンのための」本であれば、本書が最も旬であったのは決算期直前なのだから。しかしそうなったのにはわけがある。査読のためにそれだけの時間が必要だったのだ。
目次をご覧になるとわかるかと思いますが,本書ではかなり広範囲の話題を扱っています.そこで,石橋良信先生(環境科学),稲葉寿先生(人口学),魚橋慶子先生(情報幾何学,統計学),神林博史先生(社会学),高安秀樹先生(経済物理学)に査読していただきました.私の専門外の領域については,専門家の方々に協力して頂くことによって,完成度が格段に上がったと思います.
本書は、一般書のわかりやすさと学術書の精確さを兼ね備えた、ノンフィクションかくあるべきという一冊でもある。期末を逃したのは惜しいが、しかし待ったおかげで本書は「ビジネスパーソンのため」を超えた、「有権者、そしてこれから有権者になる者すべてのための」という、より普遍性のあるものに仕上がった。
Don't politic, use data. by Marissa Mayer
著者のblogのスローガンであり、そして叡智ある群衆の一員たる我々がすべて心すべきスローガンでもある。Don't Panic, use data!
Dan the Endorser
やはり本が売れない時代だからでしょうね。
スコープを絞らないと本を手にとってくれる人がいなくなるからです。
タイトルをぱっと見て関係ないと思ってしまったら、二度と本を手にとらない人が大半。
本を買わない人に買ってもらうための出版社の苦肉の策の結果のタイトルではないでしょうか。
本当は著者も不本意なのでは。