ディスカヴァーより献本御礼。

売れている本なので、ついつい書評を後回しにしていたら、今度は著者ご本人から献本が。というわけで「借金」を「貯金化」することに。

もし本書が、ただの「貯金本」だったら、何冊献本されようがスルーすべきなのだが、幸いなことに、本書はそうではない。1,260円の本書は、定期預金一ヶ月ものの現在の金利から逆算すれば、126万円以上貯金してはじめて「元が取れる」ということになるが、本書にはその10倍の「価値」をもたらすと保証できる。

ただし、きちんと読んで実行した上での話、であるが。

本書「年収200万円からの貯金生活宣言」の「真題」は、「いかにして貯金するか」ではない。「今、金につかわれているあなたが、いかにして金をつかう側に回るか」なのである。

書評が遅れたお詫びをかねて、今回は目次はDiscoverのページにまかせ、代わりに貯金力チェックテストを実装してみた。

  1. レシートはもらわないし、中味も気にしない。
  2. 特売品を買おうとお店に行くが、他のものも買っている。
  3. クレディットカードのキャッシングで、貯金を「下ろす」感覚になったことがある。
  4. 誘われたら、お金がなくても付き合う。
  5. バーゲン品は買わないと損だと思う。
  6. クレディットカードが使える場面では、現金は使わず迷わずカード払い。
  7. 100円ショップで大量に買い物してしまう。
  8. 時間は守るつもりだけど、よく遅れる。
  9. 冷蔵庫や玄関は汚い。
  10. 老後と明日。より心配なのは明日のほう。
  11. お金を貯める努力は、恥ずかしいことだと思う。
  12. ケチと節約の違いが分からない。
  13. 夫婦の場合、妻が家計のやりくりをしているのは当然だと思う。
  14. 「何とかなるさ」と思うことが多い。
  15. 風水や水晶、印鑑などのグッズが好きだ。
あなたの貯金力:

いかがだっただろうか。ちなみに以下が私の結果である。

  1. 自営業者でレシートをもらわないというのは、自滅業者である。
  2. それ以前に「特売品を買おう」という発想がない。必要になるまで買わないし、買うときにはためらわない。
  3. クレディットカードのキャッシングは使ったことがない。
  4. そういう状況に陥ったことがない。
  5. 必要のないものはただでもらっても損である。
  6. これはYES。理由は後述
  7. そもそも100円ショップにはあまり行かない。
  8. 自堕落な私が唯一勤勉で及第がとれそうなのが、これ。
  9. 冷蔵庫はちょっと汚いかな。
  10. どっちも心配していない。
  11. お金を貯めぬ浪費力は、恥ずかしいことだと思う。
  12. 下記参照。
  13. 我が家ではやりくりは夫の仕事。
  14. 「何とかするさ」と常に思っている。
  15. 水晶?ああ振動子のことね。

90点。こういうのも何だが、「満点」よりも点数が高いと自負している。また、このチェックリストに100点がないのは、それを見込んでのことだと思われる。

話を貯金だけに限るのであれば、本書はおろか本などいらない。以下の「ラディカル貯金法」だけ実行してしまえばよい。

  1. まず収入の25%を分けておく。
    1. 住宅ローン以外の借金があったら、その25%を全て返済にまわす
    2. なければそれを全て貯金し、貯金したことを忘れる。

これだけだ。別に私の独創ではない。たいていの貯金法は、これの亜種にすぎず、本書の貯金法もそこには含まれる。これすら実行不可能だとしたら、さすがに収入が少なすぎるということだ。しかし本書のタイトルにある通り、そのラインは年収200万円。え?「たった200万じゃ貯金なんてムリ」?そういうあなたのために本書がある。

で、最初の設問である。なぜ126万円すら貯金できないあなたが、1,260円も出して本書を入手するべきなのか。

金というものの軛から、あなたをChokinするためである。

貯金という行為で得られるのは、金だけではない。いや、「それ」に比べた金などものの数ではない。貯金を通して得られるのは、「金銭感覚」という、生まれつき備わっていないに関わらず、現代人にとってもっとも必要とされる感覚であり、そして「金を使う側にまわる」という、自由なのだ。

自由には、「溜め」が必要である。その重要性は、「反貧困」の湯浅誠も力説している。

「反貧困」P. 78
"溜め"とは、溜池の「溜め」である。大きな溜池を持っている地域は、多少雨が少なくても慌てることない。その水は田畑を潤し、作物を育てることができる。逆に溜池が小さければ、少々日照りが続くだけで田畑が干上がり、深刻なダメージを受ける。このような溜池は、外界からの衝撃を吸収してくれるクッション(緩衝剤)の役割を果たすとともに、そこからのエネルギーをくみ出す能力の源泉ともなる。

その「溜め」を社会的に希求しているのが「反貧困」の「真題」であり、私もそれに同意はするのであるが、しかし社会が「溜め」を築くのを待てる人は、皮肉にもすでに人一倍「溜め」を持っている人でもあるのだ。そうでないあなたは、自分で「溜め」るしかない。

そう深刻がることはない。数ある貯金本の中で本書が頭一つ抜けているのは、「楽しんで溜める」ことにあるのだから。そう。貯金というのは、実に楽しく愉しい行為なのだ。上の「ラディカル貯金法」は、それなしに愚直に実行するにはきつすぎる。それをきついと思わない人は、本書を必要としないだろう。

そんな愉しい本書で、ほぼ唯一著者の口調が厳しくなるところがある。

下流の子は下流ではありません。格差も世襲などしません。
「そうとらえて今、努力しているかどうか」なのです。

本書の結びである。Can't agree more.

まずは「溜めて」欲しい。貯金とはただ金を貯めることではない。未来の自分に、より多くの自由を与えることなのだから。

Dan the Penny Saver

追記:クレディットカードの件であるが、私は一回払いしか使ったことがない上、決済は引き落としではなくネット口座からの振込である。そしてなるべく支払いをそちらに集約している。支払い金額の75%はこうしてカードに集約されるので、カード明細を見るだけで家計簿の概要がわかる。クレディット(信用)払いさえしなければ、カードは貯金の強い味方ともなるのだ。

追^2記:図書代は浪費か投資か。私はあえて「浪費」ととらえている。効用を数値化できないというのがその理由なのだが、読書というのは数学に似て、いつどんな風に役立つかわからないが、ひとたび役立つことがわかるととんでもなく役立ってしまう。やはり投資に分類した方がよいのだろうか....