講談社青木様より献本御礼。

初出2009.05.10; 販売開始まで更新

ゲラの段階から拝読したので、紹介するまで少し待ちくたびれてしまった。改めて本になったものも手元に届いたので、「404 Blog Not Found:プロが独り立ちするためのたった一つの条件」で予告したとおり、やっと書評を上げられてほっとしている。

結論だけ言えば、才能というものに対し、少しでも「なにかしたい」という思いがある人は、必ず目を通すべき一冊である。[続きを読む]を押す前に注文しても後悔しないということは折り紙をつけさせていただく。

本書「天才! 成功する人々の法則」の原題は"Outlier"。これは著者の造語で、「標準から外れた位置にいる人々」を意味する。「ウソを通しきる人々」ではない(私は最初そう勘違いしてしまった)。その意味において邦題は間違ってはいないのであるが、直訳するにもほどがある。他の作品でも感じることだが、訳者はもう少し単語、特にキーワードに対して注意を払うべきだと弾言する(もっとも「断る力」のような bullseye もあるのだけれども)。実際、「天才」というのは書籍的には「凡才」すぎる言葉で、講談社の検索を使ってさえ、本書ではなく「天才柳沢教授の生活」がトップに来てしまう。

私なら、本書の邦題を「地才」としていただろう。

目次 - 講談社 BOOK倶楽部:天才! 成功する人々の法則より
プロローグ ロゼトの謎
ロゼト住民の死因は、老衰だけだった!
健康すぎる村
個人を超えた視点
第一部 好機
第一章 マタイ効果

選ばれたのは個人の実力? / 「樹」より「森」を見よ / アイスホッケー界の鉄則とは? / 偏りが生まれる三つの条件 / 成功は会社やシステムによって決められる / 完璧な誕生日

第二章 一万時間の法則

ネット界のエジソン / 「生まれつきの天才」は存在する? / 「t=k」の福音 / リバプールではなくハンブルク? / すべては一台の端末から始まった / 歴史上最大の「好機」とは

第三章 天才の問題点 その一

IQ195の男 / 天才の遺伝学的研究 / ノーベル賞受賞者の卒業大学 / レンガと毛布、何に使う / ターマンの誤算

第四章 天才の問題点 その二

大学は僕のためには何もしてくれない / オッペンハイマーの機知 / 親の仕事はここで決まる! / ランガンに欠けていたもの / アウトライアーになれなかった神童たち / たったひとりで成功した者はいない

第五章 ジョー・フロムの三つの教訓

世界最強の弁護士 / 「成功」物語の真実 / エリート弁護士は白い靴を履く / 「恥ずべき仕事」が「儲かる仕事」に / 生まれる最適のタイミング / 才能だけでは食えなかった時代 / “人口の谷間”の優位点 / 「僕たちの商売が見つかった」 / ユダヤ人移民の好機 / 「意義ある仕事」の三つの条件 / 家系図は語る / 超一流事務所の四人の出自

第二部 「文化」という名の遺産
第六章 ケンタッキー州ハーラン

仁義なき戦い / 南部に根強い“名誉の文化” / 「くそったれ」実験の成果 / 「文化」は成功に影響するか

第七章 航空機事故の“民族的法則”

着陸目前の悲劇 / 最悪のエアラインからアウトライアーへ / 大惨事はなせ起こるのか / 副操縦士の沈黙 / 非常時に求められる能力 / “何気ない”緊急事態 / 六種類の話法 / 「たぶん、そう思います。どうもありがとう」 / 原因の真相 / ホフステッドの次元 / 三つの悪条件が重なったとき / せいいっぱいの発言だった / 大韓航空再生の秘策 / 遅すぎた「提案」

第八章 「水田」と「数学テスト」の関係

黄金色の海 / 「数字に強い」は言語で決まる? / 勤勉だった稲作農民 / 水田がつくる文化の精神 / 素晴らしき勘違い / 数学は忍耐である / 偶然の一致? それとも……

第九章 マリータの取引

貧しい街の“名門”学校 / 「勉強のしすぎ」は健康破壊につながる? / 学力格差はなぜ起こる / 授業、授業、授業 / 「宿題は多くなければ、ニ、三時間で済む」 / すべての人々に好機を与えよ

エピローグ ジャマイカの物語

恵まれた双子 / 母の「成功」物語 / 特権という遺産 / ブラウンフェイスとビッグマスター

解説 勝間和代
生まれつきの天才などいない?
鬼才マルコム・グラッドウェルが私たちに贈る「天才論」
注解

それでは、本書の主題である「才能」とは一体なんなのだろうか。

ここで、あえて言葉遊びをしてみよう。「天才」の「天」から、「天地人」を連想して、それぞれの才がどんなものかを考えてみる。

天才
天から得た、すなわち本人の意思とも環境とも関係なく会得した才能。
地才
地から得た、すなわち環境によって会得した才能。
人才
人から得た、すなわち本人の意思により会得した才能。

これをもとに本書を一言でまとめると、「実は天才とされる人の多くは地才である」、あるいは「地才が人才を育て、その結果が天才」となるだろう。才能というものにしめる環境の役割は、我々が思い込んでいる、いや思い込まされているよりずっと大きいというのが、本書の主旋律なのだ。

おそらく本書で一番喧伝されるのは、「一万時間」であろう。私自身、すでに取り上げている。

404 Blog Not Found:プロが独り立ちするためのたった一つの条件
一万時間続けよ

しかし勘違いしないで欲しい、「だから努力が重要なのだ」という根性論を、本書はとらないのだから。一万時間というのは、本人の努力、すなわち人才だけで獲得するのがいかに困難かという例を、本書はこれでもかとばかり例示する。

たとえば、アスリート。もし彼らの才が天からの授かり物だとしたら、確率論的に彼らの誕生日は均一に分布しているはずだ。実際近代人の誕生日はそうなっている(それ以前は、夏に少ないなどの偏りがあった)。ところが、実例はこうである。

プロ野球12球団Jリーグ(J1)合計
4-6月生まれ

244人

7-9月生まれ

200人

10-12月生まれ

176人

1-3月生まれ

98人

4-6月生まれ

171人

7-9月生まれ

125人

10-12月生まれ

87人

1-3月生まれ

71人

これは本書のために講談社が調べた結果だが、見ての通り年度初めに近いほど多く、年度末に近づくにつれて少なくなっている。本書に出てくる事例はアイスホッケー選手だが、そこでもやはりこの傾向が見られる。このことは「マタイ効果」として知られているが、なんでこんなことになってしまうのか、本書でぜひ確認していただきたい。


ガキ使 ジミー大西の英語の授業 投稿者 No-rain_No-rainbow

才能にとって最も重要な環境は、もしかして言語かも知れない。まずは、これをご覧いただこう。

「笑ってはいけない学校 ジミー大西英語レッスン」の海外反応
正に、" その発想はなかったわ " 的な面白さが海外の人にはあった感じ。

一通り笑った後で、改めて考えてみよう。"ten ten"は、日中韓、あるいはCJKV言語においては決して不正解ではない。数を数えるという単純な行為一つとっても、より簡単な言語とより難しい言語があるのは確かだ。その結果、九九を覚える年齢が、東アジアと欧米では二年も違う。数字の取り扱いにおけるマタイ効果は、アスリートの時以上に大きいのだ。

最近の家計簿を見て愕然としたのは、教育費の高さ。11才と7才の娘たちに、我が家は12万円も支払っている。飛び抜けて多額ではないが、しかしどの家庭でも出せる金額ではない。親ばかを差し引いてもなお利発な娘たちであるが、それを見ると彼女たちが利発なのもむしろ当然という気分になってくる。日本社会でデフォルトで得られないはずの環境を彼女たちは享受しているのだから。

才能というものの天地人比がどうなっているのか、正直私も分からない。本書もそこまで定量的な調査はしていない。しかしそこに占める地と人の比率が、常識よりもずっと大きく、そしてそれは我々の力で変えることができるのだということは、もっともっともっと知られていい。

それを知ることは、我々の才能の総和を大きくするだけではない。社会に対する我々の認知をも変えることにつながる。才を粗末にする社会を、我々は大切にするだろうか?もし天才というものの才能が、彼らだけのものではなく社会的財産なのだとしたら、それに対する投資責任もまた、社会にあるはずなのである。

Dan the Outlier