ミシマ社より献本御礼。

初出2009.06.01; 販売開始まで更新
オビより - ジュンク堂書店池袋本店 大内達也氏
素晴らしい、の一言に尽きる。
この本はただの本ではない。本という形を取った
"未来"であり、希望である。

ぐぬぬ、台詞取られた。

まだ六月が始まったばかりなのに、六月のベストはこれで決まりではないかというほどのスゴ本。「爆笑問題のニッポンの教養」で「ずいぶんtalkがうまい人だな」とは思ったが、speechはさらにそれを上回る。

本書「脱、「ひとり勝ち」文明論」は、世界最速の電気自動車eliicaを作った著者が、中学生にもわかるぐらい簡単に、かつ博士でも納得せざるを得ないぐらい論理的に、冷静に熱弁をふるった一冊。

目次 - Amazonより
1 脱「ひとり勝ち」文明へ
2 未来は、電気自動車の中にある
3 「エリーカ」開発で見えてきたこと
4 日本発、日本型の文明を!

わかりやすいだけあって、それほど文字数が多い本ではないし、著者の熱弁は読者自ら確認したいので引用はなるべく控えたいのだが、本書の「威力」を示すのに以下は引用してもよいだろう。

P. 18
 まだ、世界不況、とまでは言われていなかった二〇〇八年の夏のころ、神奈川県のある県立高校で、ぼくは特別講義をやりました。
 講義の冒頭で、 「これから世の中は、良くなると思いますか?それとも、ダメになると思いますか?」と五十人の高校生に質問してみたのです。
 結果は、
「良くなる」=二人
「ダメになる」=四十八人
というきびしいものでした。
 しばらくして、ぼくの勤務先の慶応義塾大学を志望している高校生たちのために開講されたオープンキャンパスの講義の中でも、同じ質問をしてみました。結果は... 「良くなる」=三割
「ダメになる」=七割
 県立高校で質問したときよりも、「良くなる」は増えています。  けれども、大多数は「ダメになる」だったわけです......
 こんどは、講義の終わりにも、もう一回、聞いてみました--。  すると、 「良くなる」=九割
「ダメになる」=一割
というふうに、ぜんぜんちがう結果になりました。

これほどの威力のある講義は、正直見たことがない。あなたは、本書で追体験することとなる。

それが、脱「ひとり勝ち」文明論。

まず、その言葉の選択にシビレタ。

ある程度技術を追いかけている人であれば、著者の脱「ひとり勝ち」が脱「偏在資源」、すなわち脱「化石燃料」であることは即座に理解するだろう。実際、著者の述べる脱「ひとり勝ち」三種の神器は

  1. 太陽電池
  2. 電気自動車
  3. 省エネ家電

の三つであり、これを唱えているのは著者だけではない。

しかし、著者は脱「化石燃料」でもなく、脱「偏在資源」でもなく、ましてや脱「偏在資本」でもなく、脱「ひとり勝ち」という言葉を選んだ。ここに著者のすごさがある。

そう。脱「ひとり勝ち」。この三種の神器を、他国に対して「日本が勝つ」ためにではなく、他国とともに勝利を分かち合おうというのが本書の主張である。

もちろん、著者の言い分は我田引水ではないかという反論はありえる。たとえば次世代エネルギーとして太陽電池がいかに有望かは、私も 404 Blog Not Found:ハコモノ行政はもうたくさん、でもヤネモノ行政はいけそうでも述べたが、しかし太陽電池はエネルギーポートフォリオの一つにすぎず、現状発電量においては風力はさらに大きく、天然ガスはそれをさらに上回るのは確かである。

電気自動車も、ハイブリッドなのか燃料電池なのかはたまた著者のeliicaのようなリチウムイオン電池なのかはまだはっきりとしないように見える。

省エネ家電に至っては、もう日本は行き着くところまで行っているのではないか。

だからこそ、著者のようにはっきりとこれらの優位性を主張する人が必要なのだ。

本書を読めば、日本が千載一遇のチャンスを得ていることが、わかる。

しかし、著者はそのチャンスを逃してしまうリスクもきちんと指摘している。

あとは本書をお読みいただくとして、今が the moment of truth であることは、ニュースからも明らかだ。Chrysler はすでに倒産した。そして GM は本日にも Chapter 11 を file する。Big 3のうち2つまでがつぶれた今、米国は遠慮なく、見境なく「自動車電化」に邁進できる。

その結果、Walkmanで起こったことが、日本車に起こることも十分ありうるのだ。iPod ならぬ iCar が世界を席巻しないと誰が言えようか。すでに太陽電池の世界では、日本が世界一の座から滑り落ちたというのは「ハコモノ行政はもうたくさん、でもヤネモノ行政はいけそう」でも述べたとおりである。

まさに出るべきときに、出すべき人が出した一冊だ。

未来は、明るい。

我々が、明かりを絶やさなければ。

Dan the Impressed

追記: 株式会社ミシマ社のblog | イベント「脱ひとり勝ち社会の作り方」
6月26日 (金) 18:30開演(18:00開場)
参加費 : 500円 (当日払い)
会場 : 八重洲ブックセンター本店8階ギャラリー
定員 : 80名 (申し込み先着順) ※定員になり次第、締め切らせていただきます。 

速攻で申し込ませていただいた。ここに書いてしまった以上おそらくすぐに満席になるかと思われ、ここで紹介するのもどうかと思ったが、ここは脱「ひとり勝ち」ということで。