アスキーメディアワークス鈴木様より献本御礼。

何度か読み直して、やっとわかった。

デザインってなんだったのかが。

もちろん「デザインがわかった」から、「デザインが出来る」ようになるわけではない。しかしこの本のおかげで、デザインというものについて的確な言葉を知らなかったばかりに語れるようになる。本書はそんな一冊だ。

本書「企業戦略としてのデザイン」の原題は、"Do You Matter?"、直訳すれば「あなたは必要か?」になる。そして副題としてやっと"How Great Design Will Make People Love Your Company"と、Designという言葉が出てくる。そこに、本書、そして「デザイン」を読み解く鍵がある。

目次 - Amazonより
著者について
献辞
謝辞
1 デザインは重要である
デザインは、今“旬”の呪文である
その正確な意味はどういうものなのか
なぜデザインに注意するのか
2 あなたは必要だろうか?
あなたは誰か
何をしているのか
なぜそれが大切なのか
あなたがいなくなると、世界は前よりも寂しいところになるだろうか
3 どうすればよいのか
デザインはあなたのために何ができるのか
デザインは人々とどのようにコミュニケーションするのか
製品やサービスのデザインは、どのようにして顧客との間に情緒的な結びつきを作るのか
偉大なデザインはどのようにして強力なブランドを築くのか
4 デザイン主導とは何か
トータルコンセプトとしてのデザインとは
デザイン主導の偶像的な企業はどのように行動するか
デザイン主導の企業になるためにしなければならないことは何か
アップル、サムスン、インターフェイスなどの企業はどのように行動し、デザインは企業文化にどのように組み込まれているか
5 ブランドはロゴではない
ブランドが企業の言っているものとは異なる理由
ブランドが顧客の体の中で生きるエクスペリエンスになる仕組み
ブランドを長持ちさせるためにデザインが果たす役割
6 ポータルとしての製品
カスタマー・エクスペリエンスへのポータルとしての製品
顧客とのさまざまな接点全体で一貫した約束による偉大なエクスペリエンスのデザイン
カスタマー・エクスペリエンスのサプライ・チェーン・マネジメントのためにデザインをどのように使うか
7 製品やサービスは人と語り合う
製品やサービスが正しいメッセージを伝えるようにする方法
デザイン言語とは何か
なぜそれが重要なのか
戦略的な思考
8 デザイン主導の企業文化を築くには
考えた通りのカスタマー・エクスペリエンスを実現するには、企業文化をデザインして築かなければならない
企業文化がなければ、永続する成功は達成できない
9 前進せよ

それでは、デザインとは一体なんだろうか。「デザイン」と横文字表記をそのまま使うしかないのか?

違う。気がついてしまえば、簡単なことだったんだ。

デザインとは、体験のひな形の事なのだ。

プログラマーの言葉を使えば、体験=experienceがinstanceなら、class、いや object system に相当するのがデザインなのだ。

そう。体験。デザインは、利用者に体験というものを提供するためにある。よきデザインはよき体験を促し、悪いデザインは悪しき体験を誘発する。よって、何かをデザインするということは、それによって生み出される体験を型づくるということになる。体験である以上、そこには時間軸が組み込まれていなければならない。

デザインが「造形」だと思っている人は、この時間という軸が抜けているのだ。

本書には、良きデザインと悪しきデザインと、それによって生み出された結果が山ほど出てくる。特に「悪しきデザイン」が入っているところが重要だ。「発想する会社! (The Art of Innovation)」は良きデザインばかり出てくるので、かえってそのことが分かりにくかったということが、本書を読んではじめてわかった。

以上をふまえて、もう一度原著の方の副題を見て欲しい。"How Great Design Will Make People Love Your Company". Like でなく Love であるところに、異議がある(the word does matter). Likeなら、造形や性能でも手に入る。しかしLoveは体験を通してしか得られず、だからデザインが必要なのである。

原題でも邦題でも、本書は企業向けということにはなっているが、デザインが何たるかに思いを馳せれば、本書の知見は当然日常生活にも活きてくる。そもそも会社や社会というデザインもまた、我々市民の体験のひな形なのだから、本書は会社よりもむしろその顧客たる我々個人の方が得るところが大きい一冊なのではないか。

それが、本書というデザインから得た私の体験である。

Dan the Designer at Large