角川ONEテーマ21編集部より献本御礼。

実に「創造的」な一冊である。著者の提起する、創造的な。

「実は創造という行為は大したことではなく、大したことではないゆえにシステマティックに行うことが可能であるという」著者の主張にそって書かれ、それゆえ気軽に読め、それでいながら「大して」創造的であるという一冊。

「生産性向上モノ」の中で、現時点におけるもっとも優れた新書ではないだろうか。

本書「 創造はシステムである」は、「失敗は予測できる」の著者が著した創造術。

目次 - Amazonより。
第1章 創造は要求から
1 試しに創造してみよう
2 思いを言葉にしよう
3 創造を言葉で示すのは難しい
4 日本の企業は以心伝心が大好きだった
5 夢を言葉にして語れば、必ず実現する
6 目的を定量的に設定しよう
7 明治以来、要求機能も輸入してきた
8 リサーチとソリューションを分離してみよう
9 要求機能を列挙してみよう
10 不況時に研究室をどうやってサバイバルさせるか
11 目的を持つには、生きる力が必要である
第2章 思考方法はワンパターン
1 簡単な思考演算を用いると、新たな設計解が導ける
2 「凍結させる」の思考演算子を使う
3 思考演算子を用いるには、思考の上下運動が不可欠である
4 TRIZを用いて思考を上下運動させる
5 頻繁に用いる思考演算子にはどのようなものがあるのか
6 挿入付加の思考演算子の応用―第3物質の挿入
7 分割の思考演算子の応用―機能分離、並列化、副次排除
8 変形・交換・流線の思考演算子の応用―逆さにする
9 困ったときは、思考演算をやってみよう
第3章 システムは可視化できる
1 要求機能を整理しないと、創造したいものの全体像がわからない
2 ジャガイモ皮剥き器の要求機能をあげよう
3 干渉を逆手にとって成功させよう
4 組織間で干渉が生じて、コミュニケーションエラーが起きる
5 いまどきの干渉管理をやってみよう
第4章 真似ができない創造化
1 干渉設計よりもわかりにくい複雑設計が続々と生まれた
2 人智を超えるような複雑な設計で失敗する
3 モジュラーとインテグレイテッドで戦わせてみよう
4 干渉が大好きな日本の大企業はどうやって失敗を減らすか
5 外見は面倒、中身は単純、真似ができない創造化
6 インテグレイテッドな頭の使い方が中小企業の武器である
7 高級レストランはインテグレイテッドである
8 世の中にはインテグレイテッドとモジュラーの両方が必要である

それでは著者のいう「創造」とはなにか?

P. 14
 「創造」というと、天地創造のように、神様の仕事に聞こえる。しかし、何も身構えるほどの大仕事ばかりを意味するのではない。
  創造を、設計、企画、戦略、立案とかの言葉に言い換えても同じである。創造の対象は、天才がやるような大仕事とは限らない。用は、自分にとって目新しいことを、自分の力でやりとげればいいのである。

「自分にとって目新しいことを、自分の力でやりとげればいい」。創造とは、自分が欲しい物事を、自分の力で手に入れることなのであり。その意味において誰にも出来、誰もがやっていることなのである。たとえば著者は最初の例として、学会での発表することを「創造」としている。本entry自身、創造であることは言うまでもない。

そのためにまず必要なのは、「自分が欲しいのは何か」をきちんと定義すること。創造的でない人や組織は、まずこれがきちんと出来ていない。そして結局おもちゃをねだっては放り出す子どものように、あるいはいつまでも「検品」が得られないデスマーチプロジェクトのように迷走する羽目になる。本書は第一章でこれを抑える。

目標、すなわち「何を創造するか」を決めてしまえば、あとはそこへ向かうだけだ。だとしたら、創造の過程そのものが「独創的」である必要は実はなく、そして実は創造の手法というのはワンパターンなのだと著者は第二章で説く。「あ、ばれたか」と思わざるを得なかった。実のところ、コンスタントに創造する人は、誰でもこのパターンを持っている。著者も例外ではないし、私も例外ではない。著者のいう創造のシステムとは、このパターンの事を指している。

創造がシステムの産物である以上、この創造のシステムも可視化可能である。ソースコードというのは、データという入力を出力という別のデータにするためのシステムを可視化したものであるし、言語で書かれても「見えない」人には図もある。もちろん本書には両方とも登場し、そして本書に登場する図というのはマインドマップに代表する樹形図よりさらに進んでいる。

どこが一番進んでいるかというと、「部品」どおしの「干渉」をきちんと扱っていること。システムは部品で出来ており、そしてその部品そのものが(サブ)システムであることも多い。そして往々にして、ある部品は別の部品の邪魔をする。あっち立てばこっち立たず。実はシステムの設計で最も頭を悩ませるのがこの問題であるが、今までの類書はこの問題をほとんどスルーしてきた。本書の最大の価値は、ここにある。

干渉の解決には、二通りの方法がある。「モジュール化」と「インテグレーション」だ。前者は部品通しの独立性を高めることで、そして後者は部品通しの独立性を低めることで、干渉を防ぐ。

ここで著者が挙げた例が面白い。エンジンのピストンとシリンダーの例だ。米国では較差をきちんと定めた上で、それぞれ別に作るが、日本ではシリンダーとピストン双方を吟味し、最もシリンダーに適合するピストンを装着してエンジンをなす。日本方式の方が精度が高いエンジンが出来るが、しかしエンジンが壊れた場合、シリンダーもピストンも交換しなければならない。シリンダーとピストンが「インテグレート」されているからだ。逆に米国方式では、エンジン全体の精度はある程度犠牲になるが、ピストンが壊れたらピストンだけ交換すればよい。

このように、モジュール化とインテグレーションの葛藤も、創造の醍醐味であり、そしてそうした事例が本書には山のように登場する。本書の理論と実践のバランスのありようは、創造システムを設計するにあたって実に参考になる。

個人的に本書で嬉しかったのは、「文系」読者におもねらなかったこと。「数式を使わない」どころか、本書には「思考演算子」なる言葉すら登場するし、行列式すら登場する。それが

Amazonのレビュー
私が文系だからかもしれないが、文章がわかりずらい。

に繋がっているのかも知れないが、はっきり言ってしまうと、理系センスがない人に私は創造性を全く感じないのだ。勘違いして欲しくないのだが、これは「文系」職「理系」職といった職にはあまり関係ない。前者にも理系センスがある人は少なくないし、後者にも理系センスがない人は大勢いる。しかし著者がいうように、「創造を言葉で示すのは難しい」のだし、そして言葉で示せなくとも、何らかの方法で示すことさえ出来れば創造は出来る。言葉に拘泥するのは、私に言わせれば創造的とは言いがたい。

これは極論かも知れないが、「創造するため」というのは、「人は何の為に生まれてくるのか」という簡単で難しい質問に対する、難しくて簡単な答えなのではないだろうか。

あなたは、今日何を創造しますか?

Dan the Creator