あるいは、なぜフラットな世界はフラットでないのか。

ネットの炎上は人類進化の必然で、健やかなる新時代を拓く鍵かもしれない - 分裂勘違い君劇場
この宇宙の歴史が熱力学の第二法則によって熱平衡へ向かって進むように運命付けられているのにも似て、人類の歴史は、個々人の「偉さ」の分布が平衡状態へと向かって進むように運命付けられているかのようでもある。

まず、この認識が間違っている。

宇宙は、全体を見れば実にフラットな場所である。

平均的な宇宙には、背景輻射以外には何もない。

にも関わらず、この宇宙には、超銀河団があり、銀河団があり、銀河があり、星団があり、星系があり、恒星があり、惑星がある。そして面白いことに、熱力学の第二法則に逆らうがごとく、宇宙はフラットでなくなっていくように見える。物質があるところにはより多くの物質が集まり、ないところからはますます無くなっていく。太陽系の質量のほとんどは太陽にあり、残りの質量のほとんどは木星にある。

面白いことに、人と人との関係も、これによく似ている。すでに名声を持っている人は、より多くの名声を引きつける。

なぜだろうか。

どちらにも引力はあっても、斥力はないからだ。

「いや、悪名は斥力ではないのか」という意見もあるだろうが、それは違う。悪名もまた名声なのだ。有名の反対は悪名ではない。無名である。力としての名声を考えるにあたって、重要なのはそのよしあしではない。「知られている」か否かだけでよい。

たとえばあなたがプログラマーについて語りたいとする。あなたは聞き手にわかるように語りたいが、しかし同じわかるであれば、なるべく話しを短くまとめたい。話しを分かりやすくするために、実例を上げたいがどうするか。

「プログラマーエヌ氏」をわざわざ想定し、エヌ氏がどんな人物かを説明するか、それとも聞き手がすでに知っている名前を説明抜きで使うか。

後者の公算が、ずっと大きいのではないだろうか。

そしてそれが積み重なれば、その積み重ねそのものがその人をますます有名にする。その人が有名になりたいだとか、勇名が悪名に勝っているかだとかいったことは一切関係ない。われわれがわかりやすく話しをしようとするだけで、時が経つとともにそうなってしまうのである。

フラット化する世界というのは、山がない世界ではなく、山の勾配がずっときつくなる世界ではないのか。富士山がなくなる代わりに珪林があちこちに出来る世界ではないのか。昔だったら教室一→校内一→市内一→県内一→全国一ときてやっと世界一に対峙していたのが、いきなりラスボスに出くわす、そんな世界ではないのか。

この一件熱力学の第二法則に反する、「持てるものはますます持ち、持たざるものはますます持たざる」現象というのは、実は熱力学の第二法則に従っている。質量がより集まった状態というのは、そうでない状態よりエントロピーが高い。ブラックホールが一つある状態というのは、それ未満の星が二つある状態より熱平衡に近いのだ。密室における熱死と実際の宇宙の違いは、密室は膨張しないが宇宙は膨張している、すなわち冷えているということと、重力という引力があるという二つである。「冷却」と「引力」。この二つがある限り、宇宙は「壊れつつ」「秩序を生み出す」。

人の世界もこれに似ている。我々の住まいである地球は、宇宙よりは密室に近いが、我々の心はまだ膨張しており、その過程で世界は「冷え」、戦争は減っている。そして人と人との間には引力が働き、マチはますます過密に、ムラはますます過疎になっている。

世界が平和になればなるほど、そして人が人に引かれれば引かれるほど、持てるものはますます持ち、持たざるものはますます持たざるようになっていく。反権威は権威となり、権威は偶像となる。

遅刻したら、岡田有花女史の話は終わっていた: 切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog
新しい注目される書き手がポピュラーになることなく、dankogaiとかfinalventとか私も含め見知った顔が昔どおりにブログのネット側での知名度を獲得し続けてきたという反省があります。

私自身そのことを愉快なことだとは決して思っていないけれど、しかしそれ以上に「しかたがない」感が強いのは、社会に上の原則が働いているからだ。隊長も私も、獲得しようと知名度を得たわけではない。少なくとも知名度を上げる努力はまるでしていない。しかしすでに手元にある知名度そのものが、知名度を引き寄せる。金ならまだ遣えば減るが、知名度はそうは行かない。反省して何とかなるものではないのだ。

Albert Einstein - Wikiquote
To punish me for my contempt of authority, Fate has made me an authority myself.
権威への侮蔑に運命が下した罰は、私自身が権威となることだった。[拙訳]

ならば、せいぜい利用してもらおうではないか。巷で言う「切込隊長」や「小飼弾」は、本人とはかけはなれた別の何かのことかも知れないが、そのことに目くじらを立てても仕方がない。税金は値切れるが、名声はそうは行かないのだから。

Dan the Unauthorized Authority