著者より献本御礼。
実は前著「日本を変える「知」」も、私が購入した直後に献本が来た。この場を借りて御礼。
前著はずいぶんと厳しい評価をしたが、本書では事実上の主著者の飯田さんが主張する「経済かくあるべし」と私が考えているそれとが実はほとんど離れていないことを確認できたのは嬉しかった。
だからこそ、「シノドスは自然科学者も招け」という思いはますます強くなったのだけど。
本書「経済成長って何で必要なんだろう?」は、前著「日本を変える「知」」で扱っていた経済を「ズームアップ」した一冊。
目次 - Amazonより本書における主著者の主張を大まかにまとめると、以下のようになるだろう。
- 経済学は、もっと実践的になるべきである。
芹沢 それに対して日本では、サイエンティストばかりで、エンジニアとしての経済学者というアイデンティティが弱いと。 飯田 もちろん経済学はよりいっそう採点すとしての方向に進むべきだという主張もあります。サイエンスとしての経済学という観点から現在の経済学を評価すると、その発展段階は数学やサイエンスにおけるギリシャ時代にあたるということになるでしょう。つまり3000年後には役に立つかもしれないが、いまいえることは少ないというわけです。
僕はそうした見方には反対です。ギリシア時代にもエンジニアはいたんですよ。錯誤しながら薬を見つけたり、投石機をつくったり、暦をつくったりしていたわけです。もしそれがないのであれば、経済学って和算になってしまうと思うんです。絵馬の問題を解いて神社に奉納していればいいと思うんですよ。そういう意味で、僕は経済学者は歯医者でなければならないと思いますし、エンジニアでならなければいけないと思っています。 - 「昔はよかった」はウソである
- 昔よりよくなったのは、経済成長あればこそ
- 日本は貧困率の高い若者から貧困率の低い老人に再分配している
飯田 ....僕が新自由主義でないところは、「再配分をしろ」ということです。
- ベーシックインカム賛成
飯田 ....年金というのは何をやっているのかというと、貧乏な若者から税金をとって、金持ちの年寄りに配っている。それよりも生活保護やベーシックインカムで生活を保障し、それ以上の部分については、個々人が自分の判断で預貯金すればよい
- 消費税より所得税
- 累進課税には経済安定効果がある
他にもあるが、これらのどれ一つとして、私が反対のものはない。どころか本blogの主張はほとんどがこれにそったことである。
ただし、一つ決定的な違いがある。「経済成長」という言葉の主語だ。
主著者のそれは、「日本」である。「日本の潜在成長率が2-3%あるのに、1%にとどまっているのはもったいないし、潜在成長率が顕在化するだけで問題の多くは自然消滅する」というのが、著者の主張する「経済成長は必要である」の理由だ。
私のそれは、「世界」である。それも「永遠」ではなく、貧困の根絶まで、あるいはもっと具体的に「70億人が現在の米国並みにエネルギーが使え、自家用車が手に入る」までだ。それが理想ではなく現実に可能であることは「 脱「ひとり勝ち」文明論」に書いてある。著者はポルシェ911ターボより速い電気自動車eliicaを作ったサイエンテフィック・エンジニアである。
そうなった暁には、日本は少なくとも経済大国ではなくなっている。小国でもないので「中国」ということになるが、経済問題、というより経済そのものが問題でなくなるにはそうするしかない。また、そうならない限り、すなわち日本が経済大国としてまかり通ろうとする限り、いくら日本経済が成長したところで、格差問題は解決しない。世界が貧乏である限り、賃金は日本水準でなく世界水準の方に引き寄せられ、それを無理矢理止めようとすると今度は雇用そのものが失われるからだ。
宇宙は、不断で無限の経済成長は許していない。
しかし、たかだか100億人に満たない地球人全員に、今は先進国の住民しか享受していない富を与えることを禁止しているわけではないのだ。
Economy of Infinite Growth はありえない。
しかし、 Economy of Abundance は可能なのだ。
そのために乗り越えなければならないのが、なんといってもエネルギーだ。逆に言えば、エネルギー問題さえ解決してしまえば、経済問題は問題にならなくなると言ってしまって過言ではない。「脱「ひとり勝ち」文明論」もこの点を正しく指摘している。
そして、その問題を乗り越えたとき何が起こるかは、インターネットのインフラが証明している。キャパシティが一定量を超えると、もはやそれ以上それを欲しがらなくなるのだ。ネットに関しては、それは100Mbpsだった。個人の経済に関しては、現時点で1000万円/年のオーダーだろうか。もっとこれは「技術革新」で変わる可能性もある。100Mbpsで満足している大きな理由としては、圧縮技術は欠かせない。YouTubeやニコニコ動画がありえるのは、動画は1/100-1/1000に圧縮されているから。社会が進むことで、「もうおなかいっぱい」ラインが下がる可能性は否定しきれない。
「お金と生き方の学校」 P. 130小飼 ....もし、全員が億万長者だったら、お金なんて少なくともステイタスにはならないわけですよね。湯水のごとくエネルギーが使えるようになったら、本当にそういう世の中になり得るんですよ。そして、理論的にそうもっていけない理由はまったくないです。太陽エネルギーだけ考えても、それは不可能ではありません。僕はそういう時代を見てみたいです。お金を前にして、「みんなこんなものに夢中になっていたの?」と、いまの僕がパチンコに対して注ぐ視線を、みんながお金に対して注ぐ時代がいつか来るんじゃないかと思うんです。
むしろ日本をはじめとする先進国の役割は、ポスト貧困時代における社会と経済の設計ではないのだろうか。確かに経済運営において、経済成長というのは七難を隠す。苦労して社会を設計するより、「一にも二にも経済成長」と言った方がずっと楽だし、冷戦後に先進国が選んだのは、経済成長依存経済という名の後進国経済だった。
その結果、どうなったのか。
貧困はちっとも減らなかったのである。少なくとも、先進国においては。
正直、経済成長依存経済が続けられればどんなに楽かと私も思う。その意味で団塊の世代がやってきたゲームはずっと簡単なゲームだった。先進国が今直面しているのは、一段と難しく、それだけに一段とやりがいのあるゲームなのではないか....
そういうことを考えるためにも、今の経済学はもっと心理学と物理学(に|を)学ぶべきだ。経済の主体たる人を動かしているのがこの二つをないがしろにしてきたことこそ、経済学の最大の問題ではないのだろうか。
Dan the Economic Animal
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