海と月社松井様より献本御礼。

すっかり書評が遅くなってしまった。おそらく全米一有名で、ほぼ確実に全米一面白い起業ブロガーの一冊だというのに。

著者のとおりに、おそらく現時点において最も使えて、そして確実に最も面白い起業マニュアルである。

本書「完全網羅 起業成功マニュアル」の原題は、"The Art of the Start"。「直訳」すると「起業法」になるだろう。ちなみに"The Art of War"が「孫氏の兵法」の英訳。もちろん著者はそのことを強く意識している。"War"に対して"the Start"と定冠詞が入っているのは、それが単なる「はじまり」ではなく「起業」であることを表している。

目次 - Amazonより
まず、お読みください。
第一歩 Causation
第1章 エンジン始動の奥義
明確化 Articulation
第2章 ポジショニングの奥義
第3章 売り込みの奥義
第4章 事業計画作成の奥義
活性化 Activation
第5章 自己資本経営の奥義
第6章 人材採用の奥義
第7章 資金調達の奥義
成長 Proliferation
第8章 パートナーシップの奥義
第9章 ブランド構築の奥義
第10章 事業拡大の奥義
責務 Obligation
第11章 気高き事業遂行の奥義
あとがき

今では How to Change the World の中の人して知られる著者だが、古株のMacファンはむしろ"The Macintosh Way"を書いた人として知られているかも知れない。私は彼が MacWorld Expo に来たときにちゃっかりサインをいただいたことがある。

そしてその頃から、彼の文体は変わっていない。

その大胆で慎重なユーモア感覚は。

慎重という面は、本blogでも紹介したことがある。「404 Blog Not Found:惰訳 - 起業における神話トップ10」の元記事は著者のblogである。著者は現実から目を背けない。背けない以上、起業の神はディテールに宿るという現実に正面から取り組み、結果本書には実にこまごまとした実例が山のように登場する。よくぞ「アントレプレナーシップ」のような大著にならなかったものだ。

MBAのクラスで起業を習うのであれば、その教科書はこの「アントレプレナーシップ」となるだろう。こちらも献本御礼。しかし、起業にMBAはいらない。むしろ邪魔ですらある。MBAが役立つのは、続業からであって起業ではないのだから。

それでは、起業に最も必要なのは何だろう。

Fun、である。

この一点において、本書はおよそぶれることがない。起業というのはその目的のみならず、過程においても実に多くのFunを必要とする。資金などなくても起業はできるが、Funがなくては無理である。逆にFunを続けられるのであれば、資金は後からついてくる。

およそ優れた本というのは、その主張がスタイルと一致しているものであるが、本書もまた例外ではない。本書は役に立つ以上に面白いのである。もちろん「興味深い」(interesting)という意味の面白さではなく、「笑いが絶えない」(fun)という意味の面白さである。一カ所だけ紹介しよう。

P. 157
最後にもうひとつ、やはり無視するべき特徴がある。業務遂行上の弱みである。スティーブ・ジョブスの強みの一つが思いやりだという人はいまい。ビル・ゲイツの強みが美的デザインだという人もいないだろう。

起業にSWOTはいらない。SOTがあればいい。いや、Tすらいらないかも。SOれでいいのだ。

起業を志す人も志さない人も、まずは本書で多いに笑って欲しい。そしてもしあなたが笑い以上の何かを欲するのであれば、今度は笑わずにもう一度真剣に本書を読み返して欲しい。それでも抑えきれぬfunへの渇望が残っているのであれば、迷わずに起業しよう。

起業とは、起社でも起債でもましてや起忙でもなく、読んで時のごとく、業(karma)を起こす(start)ことなのだから。

Dan the Starter