この記事を受けて、
アホかー! - シートン俗物記どういうつもりで書いているのか判らないけど、マグネシウム還元には、一般に「電解精錬法」が使われる。
私もそう思っていたので、調べてみたら意外な事実が。
結論から先に書くと、もはや「電解精錬法」はマイノリティなんです。
マグネシウムの精錬法は、実は二つあります。
一つは、電気精錬法。
MgCl2 → Mg + Cl2
と、塩化マグネシウム(にがり)を電気分解するのがこの方法で、かつて米国は全世界のマグネシウムの45%をこの方法で作っていました。
ところが、今や米国の生産量のわずか7%。辛うじて一社だけが踏みとどまっている状況です。それに代わって登場したのが、中国。
によると、2008年の金属マグネシウムの全世界生産量80万8000トンのうち、70万トンを中国で生産しています。そして、中国では電気精錬法ではなく、ピジョン法という方法でマグネシウムを精錬しているのです。これは
Si + 2MgO → SiO2 + 2Mg
と、シリコンで酸化マグネシウム(マグネシア)を還元する方法で、実際にはフェロシリコン(鉄とシリコンの合金)とドロマイト(MgCO3; 炭酸マグネシウム)を原材料として用います。
触媒が必要かどうかまではわからなかったのですが、この反応は真空下、1200℃で行われるので、加熱に石炭を使っていてもおかしくありません。実際、経産省が出している資料には、1tのマグネシウム精錬に必要な材料として、フェロシリコン1.15t、ドロマイト11tに加え石炭11tとあります。フェロシリコンは「触媒」ではなく「還元剤」ですが、その点を除けば
世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(1) | WIRED VISIONマグネシウム1トンを作るために石炭が10トンも必要になります。
という矢部孝教授のせりふはつじつまがあっています。
- Pidgeon process - Wikipedia, the free encyclopedia
- http://www.meti.go.jp/policy/nonferrous_metal/strategy/magnesium02.pdf
なお、両精錬法とも、「元素111の新知識」に乗っています。が、こちらも電気精錬法ひいきな書き方です。
P. 81海水からの効率的で経済的な塩化マグネシウム抽出法が進歩したので、電解法が有望である。
どちらかというとピジョン法の方がローテクなのですが、純度はむしろこちらの方が高く、必要なエネルギー量はほぼ同じぐらいでも、こちらは割高な電力ではなく、割安な熱でOK。というわけで現時点ではマグネシウムの精錬は、ローテクがハイテクに勝った一例となっているようです。
Dan the Data Miner
リンク先のWIRED VISIONによるインタビュー記事を読めば、たかが今の中国のマグネシウム生産がどうのこうのなんて、細かい小さな話はどうでもよくなるから。
すっげぇワクワクするような話が、以前に見聞きしたよりも一段と現実味を帯びて進行中なんだよ。
リンク先の記事を読んで、「エネルギーのマグネシウム循環社会」を夢見る人がもっと増えてほしい。