翔泳社外山様より献本御礼。

今や何百冊とある「左脳vs右脳本」の中では、最も面白く使えそうな一冊。

しかし同時に強く思ったのは、「これでは足りない」ということ。

それでも、足りない以前に「気がついていない」人が多すぎる。まずは気づいて欲しい。コカコーラーと砂糖水の違いがなんなのか。

本書「マーケティング脳vsマネジメント脳」は、「製品を育てたい」マーケティングと、「会社を育てたい」マネージメントが、なぜ互いを理解できないのかということを、これでもかというぐらい徹底的に考察した一冊。目次を見るだけで、それは明らかだ。

目次 - マーケティング脳 vs マネジメント脳:SEshop.com/商品詳細
目次
序章
ビロードの厚い幕
第1章
マネジメントは「現実」に取り組む
マーケティングは「認識」に取り組む
第2章
マネジメントは商品に力を注ぐ
マーケティングはブランドに力を注ぐ
第3章
マネジメントはブランドを持とうとする
マーケティングはカテゴリーを持とうとする
第4章
マネジメントはよりよい商品を求める
マーケティングはほかとはちがう商品を求める
第5章
マネジメントはフルラインナップを好む
マーケティングはラインナップを絞る
第6章
マネジメントはブランドの拡大を図る
マーケティングはブランドの縮小を図る
第7章
マネジメントは“ファースト・ムーバー”を目指す
マーケティングは“ファースト・マインダー”を目指す
第8章
マネジメントは“ビッグバン”を期待する
マーケティングはスロースタートを予想する
第9章
マネジメントは市場の中央を狙う
マーケティングは両極のどちらかを狙う
第10章
マネジメントはすべてを詰め込もうとする
マーケティングは一語で表現しようとする
第11章
マネジメントは抽象的な言葉を使う
マーケティングは視覚的な表現を使う
第12章
マネジメントはブランドをひとつにしようとする
マーケティングはブランドの数を増やそうとする
第13章
マネジメントは才気を重視
マーケティングは実績を重視
第14章
マネジメントはダブルブランド派
マーケティングはシングルブランド派
第15章
マネジメントは永遠の成長を目指す
マーケティングは市場の成熟に備える
第16章
マネジメントは新しいカテゴリーをつぶす
マーケティングは新しいカテゴリーを生み出す
第17章
マネジメントは情報を伝えようとする
マーケティングはポジションを獲得しようとする
第18章
マネジメントは顧客を一生、手放すまいとする
マーケティングは顧客を短期間で手放すことをいとわない
第19章
マネジメントは割引券とセールが大好き
マーケティングはそれらが大嫌い
第20章
マネジメントはライバルのまねをする
マーケティングはライバルの反対を狙う
第21章
マネジメントは名称の変更を嫌う
マーケティングは名称の変更をいとわない
第22章
マネジメントは絶えざるイノベーションに必死
マーケティングはひとつのイノベーションで満足
第23章
マネジメントはマルチメディアを礼賛
マーケティングはマルチメディアに懐疑的
第24章
マネジメントは短期的にものごとを見る
マーケティングは長期的にものごとを見る
第25章
マネジメントは常識を拠りどころにする
マーケティングはマーケティングの感覚を拠りどころにする

目次からも明らかなように、本書はマーケティングよりの一冊であり、そうなっているのには理由がある。

マーケティングの方が、「難しい」からだ。何が難しいかというと、「正しさを説明するのが」難しいのだ。マネジメントは言語的で論理的。それゆえ「どうすればよいか」を言葉で書くことが出来るし、「正しいマネジメント」は、業種が変わってもそのまま適用可能だ。極論してしまえば、製品がなくてもマネジメントは成り立つ。

それに対して、直感的で感情的なマーケティングは、現物が目の前にないと「正しさ」がわからない。マネジメントはもとより、マーケティングの人にすらそれは事実だ。マーケティングの世界では、ブツがあってナンボであり、それゆえ業種の壁を乗り越えるのは難しい。

これほど違う両者であるのに、両者を混同するのは実に簡単なのである。マーケティングの現人神クラスのJobsですらそうなのだ。さもなければ砂糖水を売っていたScullyをApple Computer(当時)に入れた挙げ句、追い出されるような羽目にはならなかったはずだ。

そしてこのことは、本書自体にも言える。

本書の分析で一番うならされるのは、コカコーラやRed Bullsといった清涼飲料水に関するものである。これらはローテクで、作る気になれば誰でも作れるものである。その中で唯一簡単に作れないものがブランドであり、そしてこのブランドはマネジメント脳には作れないという本書の主張には異論を挟む余地がなさそうに思える。

しかし、iPhoneやGoogleとなると、どうだろう。

これらは、マーケティング脳だけでは絶対に作れない。こういった商品に関する本書の分析に、私は違和感を感じまくらずにはいられなかった。例えば本書はAmazonが書籍以外のものを売り始めたことに対し「悪い兆候」といい切っている。Amazonが売っているのが書籍であれば、これは正しい分析であるが、違うのである。Amazonが本当に売っているのは、データベースと在庫システムなのである。そのことにいち早く気づいた Tim O'reilly はさすがだ。

AppleがiPhoneもiPodもMacも売っていることに対しても著者たちは同様の感想を述べているが、その一方でiTunes Storeにはほとんど言及していないのは実に痛い見落としである。Appleが売っているのは"iLife"(同名のソフトウェアスイートではなく概念)であり、iPhoneもiPodもMacも「部品」にすぎない。こういう「確かにそこにあるけれども、手に取ってみるのは難しい」製品を、著者たちは見事に見落としている。デジタルネイティヴたちはこういう「もの」に実感を感じているはずで、著者たちの「マーケティング脳」はその意味でちょっと古すぎるのではないか。

しかしその点を差し引いても、本書の知見は得るところが多い。特に日本の場合、マーケティング脳がもう少しあればもっと成功したのにというものが目白押しで、むしろ原著の米国よりも有用性は高いのではないか。

Dan the Right-Brainer