三才ブックスより献本御礼。献本いただいてからだいぶ日が経ってしまった。
「萌え本」に対する私の評価は厳しい。「もえたん」も「萌えて覚える化学の基本」も、酷評せざるを得なかった。
そんな私でも、本書は好意的に評価している。こういうのもなんだけど、本書は「はじめて基準を満たした」萌え本なのではないか。
本書「現代萌衛星図鑑」は、日本の人工衛星たち(厳密には人工天体たち。たとえばはやぶさは人工衛星でなくて人工惑星)を美少女に見立てて楽しむという一冊。登場「人物」たちは以下の通り。
目次- 気象観測衛星「ひまわり」
- ハレー彗星探査機「すいせい・さきがけ」
- 技術試験衛星VII型「きく7号/おりひめ・ひこぼし」
- 環境観測技術衛星「みどり2」
- 次世代型無人宇宙実験システム「USERS」
- 小惑星探査機「はやぶさ」
- 月周回衛星「かぐや」
無生物な主題を擬美少女化するという萌え本は、一見安易な企画だ。確かに、企画としては安易さは、オヤジギャグクラスではある。しかしこういう安易な思いつきこそ、きちんと形にするのは難しい。萌え本は思いつきは簡単でも、読者をきちんと納得させるのは難しいのだ。
それは、「主題」と「萌え」の二兎を追っているところに起因する。両方がよくなければ、駄本なのだ。「もえたん」は前者が、「萌えて覚える化学の基本」は後者がそれぞれ「不合格」。
本書は、双方ともしっかりやっている。「主題」に関しては、日本有数の宇宙ジャーナリスト、松浦晋也が監修している。これ以上の監修者はありえないだろう。後者に関しては趣味が分かれるところではあるが、「萌えて覚える化学の基本」のように絵を寄せ集めていないのは多いに評価できる。
404 Blog Not Found:萎えたよコレ - 書評 - 元素周期 萌えて覚える化学の基本敗因は、イラストレーターを複数用意してしまったことにある。これでは「絵」は出来ても「世界」が出来ない。
という問題は本書とは無縁である。
しかし双方をクリアーしたとしても、それではただいい「解説」とかわいい「絵」があるだけの本にすぎない。萌え本として評価するためには、1 + 1 > 2 となっていなければならない。それでは 1 + 1 - 2 に相当するのは一体なんだろうか。
「主題」と「萌え」の相性ではなかろうか。
我々の想像力というのはすごくって、元素だろうがプログラミング言語だろうが擬人化してしまえる。私自身結構戯れにそういうことをしている。しかし擬人化の合性のよしあしというのは確かにあって、クルマのように「むしろそれが当たり前」のものから、数式にようにいったいどこから手をつけていいのかわからにものまである。衛星、それも日本の衛星というのは、その点バランスが絶妙である。
なんといってもすばらしいのは、その名前。ご覧の通り、日本の衛星というのは、主立った「者」にはすべてひらがなの、それもやまとことばの名前がつく。他国のそれと比べて、なんてあでやかなのだろう。他国のそれは機能名そのもの(e.g Voyager)や、貢献者の名前(e.g. Hubble)がほとんどで、どちらも雄々しくならざるを得ない。前者は英語であれば-erと、言語の「仕様」上どうしても「男性的」になってしまうし、後者の場合有名科学者、特に過去のそれは男性科学者ばかりであり、やろうくさくなるのは避けられない。
余談ではあるが、宇宙天体の命名は、艦船に通じるところがあるようだ。やはり宇宙「船」だからだろうか。米国の人工天体も役割型から偉人型に命名法が移っているが、これは艦船の命名法の傾向である。余談中の余談ではあるが、「COBOLのおばちゃま」Grace Hopperは、イージス駆逐艦の名前にもなっている。
もし「ひまわり」がGMSのままだったり、「はやぶさ」がMUSES-Cのままだったら、これほど萌えることができただろうか。名前の力は偉大である。
個人的に一つだけ残念までいかずとも惜しいと思ったのは、衛星たちの選択。本書の選択は悪くはないなとは思うけど、やはり「有名人」に偏っているところは否めない。一般的には地味でも世界的な業績を上げているのは、なんといっても天体観測衛星の分野で、本書に太陽観測衛星「ひので」も赤外線天文衛星「あかり」もX線天文衛星「すざく」もないのはかなり堪えた。いずれもこれなくしては現代の天文学は世界的に成り立たないほど重要な衛星なのに。
しかし、「なんで彼女が入っていなんだ」という感情を持てることそのものが、本書が萌え本として成功したことの証なのだろう。
萌え本は、今後もたくさん出るだろう。悲しいかな、駄作も。制作者各位はせめて本書を参考にして、読者を萎えさせないようにがんばっていただきたい。
Dan the Stellar Blogger
にフイタw